大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が今場所最初の大関戦を制し、無傷の9勝目を挙げた。武蔵丸-貴ノ浪戦を抜く幕内最多59度目の琴奨菊(32)戦は、立ち合いでぶつかると素早く右に動いて突き落とし。綱とりに挑む同じ二所ノ関一門のライバルとの注目の一番で勝利への執念を見せ、悲願の初優勝へ前進した。

 予想外の結末に、誰もが驚いた。この日最短の0秒7でライバルを退けた稀勢の里は「当たってから、反応してくれた。いい場所のおっつけだったんで、いい攻めでした」と、いつもより大きめの声で答えた。だが満員札止めの館内はどよめき、入門時から見てきた兄弟子の西岩親方(元関脇若の里)も「あんな相撲は見たことがなかった。勝っても負けても真っ向勝負をしてきたから」と、目の前で起こった“珍事”に思わず、目を丸くした。

 冷静かつ、大胆。土俵下では勝負前とは思えない穏やかな表情で、下方の一点を見つめていた。琴奨菊の立ち合いの低さに勝機を見極め、ぶつかった次の瞬間、右に動いて、土俵に転がす。真っ向勝負にこだわってきた男の、変化とも捉えられかねない内容。「結果、ああなった」と、幕内最多59度目の対戦を振り返った。

 変化について以前、こう明かしたことがある。

 「勝つことが一番大事ですからね。オレが(立ち合いで)頭や体で行くのと一緒で、変化も1つの技」

 そう認めながら、入門から14年間、正面からぶつかり続けてきた。「器用じゃないからね。その1回だけじゃないし、つながる相撲を取らないと。そこで終わりじゃないから」。その信念を曲げてでも、ほしかった勝利。それは、相手が初場所で日本出身力士10年ぶりの優勝をさらわれたライバルであること。何より、悲願の初優勝への執念。その思いが、土俵に表れた。

 13連勝した13年夏場所以来2度目の9連勝で、単独トップは変わらず。今日10日目からは、横綱戦が始まる。「これからです。1日1日、集中して。体の反応は良くなっている」。随所に朝稽古のルーティンや心境の変化が見られる今場所。これまで優勝という壁に幾度となくはね返されてきたが、同じ轍(てつ)を踏むつもりはない。【桑原亮】