静寂をはねのけろ。大相撲夏場所(5月8日初日、東京・両国国技館)の新弟子検査が27日、館内の相撲診療所で行われ、先天性の感音性難聴を患う江塚薫(16=式秀)が両耳に補聴器をつけて受検した。生まれつき、補聴器なしで両耳は聞こえないが、小学3年から大好きな相撲を取り続けてきたガッツで入門を決意した。12人全員が体格基準をパス。合格者は内臓検査を経て初日に発表される。

 両耳につけた補聴器は、江塚の支え。「外すと、全然聞こえません」。生まれつき、内耳から神経系に障害がある「感音性難聴」を抱えてきた。そのハンディに屈することなく大相撲の門をたたいた。169センチ、70キロ。体格も決して恵まれてはいない。それでも「やっと、夢がかないます」と、喜びが心からあふれた。

 本当に相撲が好きで「小学校をやめてでも、力士になりたいと思っていました」。8歳だった小3のときに北桜だった式秀親方と、地元静岡県磐田市に近い藤枝市の巡業で触れ合って大ファンになった。たくさん塩をまく姿にあこがれ、手紙も書いた。「ぼくと勝負してください」。隣町であったわんぱく相撲の中で対戦がかない、倒したそのときに誘われた。8年間ずっと抱いた思いが、かなった。

 土俵の上で補聴器はつけられない。江塚には1人、静寂が訪れる。「ハッキヨイの声が聞こえなくて、待ったして怒られたこともありました」。ほかの力士より、間違いなくハンディにはなる。だが「小学生のころから試合はそう。慣れました」と笑い飛ばした。

 実は、式秀親方も左耳が聞こえにくかった。それを知ったとき「自分だってできると思いました」。その親方からは「耳が聞こえないのをバネに頑張れ」と励まされた。横綱双葉山は、少年時代から右目がほとんど見えない不自由を克服した。「3年以内に三段目、5年以内に幕下、10年以内に関取になりたい」。江塚も挑戦する。【今村健人】

 ◆新弟子検査 受検年齢は中学校卒業以上、23歳未満。身長167センチ以上、体重67キロ以上の最低限の体格基準に加えて、背筋力、握力、肺活量、視力、尿、血液、内臓検査などが行われる。聴力検査は含まれない。体格検査に合格すると、内臓も異常なければ場所の初日に合格発表となる。