大関豪栄道(30=境川)が、夢の初優勝へ王手をかけた。横綱日馬富士を逆転の首投げで撃破した。時間前の仕切りから、にらみあいに応じる気合を見せて初日から13連勝。2差での単独トップを死守した。今日14日目の平幕玉鷲戦に勝つか、2敗で追う遠藤が敗れれば、08年夏場所の琴欧洲以来8年ぶりのかど番優勝が決まる。

 とっさに体をよじり、支える左足に力を込めた。日馬富士の首に巻き付けた右腕に、己の体重の全てをかけた。横綱をあおむけにする、こん身の首投げ。「必死でした。褒められた技じゃないけど、今日に関しては良しとします」。必殺の“豪栄道スペシャル”だ。

 八角理事長(元横綱北勝海)も「ここで出たか。こういうところで出るのは、持ってるってこと。まさしく優勝する力士の雰囲気だ」と思わず舌を巻く大技で、夢の初優勝へ大前進した。座布団が乱舞する中、主役の大関は肩を揺らし、ドヤ顔で花道を引き揚げた。

 気合が違った。2度目の仕切りで、にらみあった。横綱の鋭い視線を浴びても、譲らない。立行司式守伊之助が、両手を広げ両雄離れるよう促すまで約11秒。「あそこで目をそらすと、やられると思った」。その意地が、押し込まれた土俵際で執念の粘りを生んだ。

 母の前で、悲願をかなえる瞬間もすぐそこだ。前日に大阪から上京した母沢井真弓さん(60)はこの日も観戦。「ドキドキしました。良かったです」と、大逆転劇を見届けた。相撲を始めるきっかけを作ってくれたのも両親だった。「4月生まれで大きいし、背も高いし、他の子より偉そうにしてたんです。相撲やったら、もっと大きな子いるやろ、と思って。子供会の回覧板に載ってた大会に、勝手に応募して連れて行ったんです。嫌や嫌や、って言ってたけど優勝しちゃって」。23年前のことを真弓さんは鮮明に覚えている。

 嫌々始めた相撲人生。埼玉栄で高校横綱になり、角界に入門した時でさえ「何も考えてなかった。とりあえず関取に上がりたいだけ」と、優勝は頭になかった。それが、今日14日目に2敗の遠藤が敗れるか、自力で玉鷲に勝てば現実になる。「集中して気合入れてやるだけです」。小鼻を膨らませ、力強く込めた言葉に迷いはない。【木村有三】

 ◆豪栄道と首投げ 首投げは相手の首に腕を巻き付け、腰を入れて体をひねりながら相手を巻き込むように投げる技。豪栄道は首投げで今場所3日目の栃煌山戦以来23勝目。平幕時代の07年九州場所で琴奨菊(当時小結)に決めたのが最初で、11日目以降の終盤戦で11度。年間で1度だけ決めた年が5度ある一方、14年の大関昇進以降は11度と頻繁に繰り出している。決めた相手は14人で日馬富士からは2勝目。最多は栃煌山戦からの4勝。失敗も多い。

<豪栄道 初Vなら>

 ◆年長初優勝 30歳5カ月は、年6場所制が定着した58年以降、隆の里の29歳11カ月を抜いて、歴代5位の年長初V。

 ◆新入幕からのスロー初優勝 54場所は、1909年(明42)夏場所以降、4番目のスロー。

 ◆大関時のスロー初優勝 13場所は、昭和以降の新大関で9位。

 ◆大関の年長優勝 58年以降、30歳0カ月の旭富士を抜いて歴代8位。

 ◆大阪出身力士の優勝 1930年(昭5)夏の山錦以来3人目。

 ◆かど番優勝 08年夏の琴欧洲以来8人目。14日目での決定は、魁皇、琴欧洲に次いで3人目。