「オレに後退はない。あるのは前進勝利のみ」-。そんなラオウの生きざまは、世代でなくとも横綱の心にあった。「ケンシロウじゃないのかと聞いたら『ラオウで』と。横綱は先代師匠の『勝負師は孤独であれ』『言い訳するな』という言葉を守る。そういう姿がラオウに重なったのかな」。北斗の拳の元のアイデアは、堀江社長が考えたもの。原作の武論尊氏、漫画の原哲夫氏も快諾し、後援会員の賛同もあって同社の役員会で議決した。ただ、それから2年もたった。

 「もう忘れたかも…と思っていたら、横綱から連絡があった。義理堅く覚えていた。そこに感動しちゃったなぁ」。何十枚も並ぶ絵柄から、楽しそうに3枚を厳選したのは横綱自ら。太刀持ちにケンシロウ、露払いに次兄トキを据えた。化粧まわしにはそれぞれ2つの北斗七星と大きな北極星が1つ描かれ、計15個の星=15勝も祈願されている。

 鉄腕アトムやバカボン、キン肉マンなど、漫画キャラが化粧まわしに描かれたことはあるが、横綱では例がない。「漫画の名誉です。横綱は少年の塊のような人。ケガしても行く勇気は、若くないとできない。昔、漫画雑誌の表紙は野球選手か相撲取りだった。稀勢の里関は、あのころに戻せる横綱」。わが生涯に一片の悔いなし-。そう言い切ったラオウの魂を、稀勢の里も受け継ぐ。