夏場所中の朝稽古後、栃ノ心が冗談交じりで話していた。「何で“カスピ海ヨーグルト”なのかな? ジョージアの味なんだから“黒海ヨーグルト”でもいいのにね」。ジョージアの位置するコーカサス地方に起源がある。トロリとした食感に昔を思い出し、1日2パック食べることがある。だからこそ、母国の接していないカスピ海ではなく、黒海の方が-。そんな思いからの“物言い”だ。

 趣味の料理も、ほぼジョージア料理。肉、魚、野菜をさばき、故郷のスパイスで味付けをする。場所中でも1時間以上かけて作ることがある。「日本のものより、香りが強い。日本人の口に合うと思うけど、ジョージア料理の店、ほんと日本にないね」。故郷の話になると冗舌になる。

 愛する故郷から、日本に来た。相撲の世界大会で大阪に初来日した04年夏、息苦しいほどの暑さに驚いた。06年2月の入門から1年間は、言葉の壁に悩み抜いた。それでも、五輪代表にも多分なれた柔道ではなく、相撲を選んだ。好きな格闘技で稼ぎ、仕送りで実家の家計を支える。「ボロボロになるまでやりたいな。柔道、サンボをやって、相撲がスポーツ人生で最後だろうから」-。入門から12年。2つの国の心を持つ大関が誕生した。(終わり)【加藤裕一】