先日、桂歌丸(79)を取材した時に印象に残った言葉がある。「『大喜利の歌丸』ではなく、『落語の歌丸』で終わりたい」。歌丸は日本テレビ系「笑点」に66年のスタート時からレギュラー出演し、9年前から司会を務める。高い視聴率をマークし、笑点の大喜利=落語と勘違いする人も出る人気番組だが、歌丸の言葉には、本業の落語で頑張っているのに、「笑点」での活動だけが注目される現状への戸惑いを感じた。

 三遊亭円朝作の怪談噺をライフワークとし、落語芸術協会会長として落語界をけん引する。来年で落語家生活65周年の歌丸を「人間国宝」にしようという動きがある。「笑点」のレギュラー三遊亭円楽が「桂歌丸を人間国宝にする会」というサイトを立ち上げ、賛同者を募っている。過去に人間国宝になった落語家は、落語家初の5代目柳家小さん、今年3月に亡くなった桂米朝、柳家小三治の3人。今、なぜ歌丸なのか。円楽は意図をこう説明する。

 「新作からスタートし、笑芸のエッセンスを良く学び、古典の継承の重要性、発展の方法を考え、落語中興の祖である円朝師匠の作品を現代に合うべく語り直し、滑稽噺から人情噺まで幅広く手掛け好評を得ており、落語を多くの方に認知してもらうため、日本中で実演の日々を過ごしています。芸歴も60年を越え、なお第一線で活躍し落語界のために頑張っている歌丸師匠こそが重要無形文化財保持者に相応しい」と。

 賛同者の目標は10万人だが、思うように集まっていないようだ。ただ、このところの歌丸の高座は充実している。ちなみに5代目小さん、小三治は旭日小綬章を受章後に人間国宝に認定されたが、歌丸も8年前に旭日小綬章を受けた。4人目の人間国宝となって、「落語の歌丸」を実証できるのか。例年、人間国宝の内定は7月に発表される。