宝塚に2次元作を定着させた雪組トップ、早霧(さぎり)せいなが、人気漫画「るろうに剣心」の初ミュージカル化に臨む。アニメ化、佐藤健主演で映画化もされた人気作。一昨年のトップ初作品で「伯爵令嬢」、昨年は「ルパン三世」と、漫画原作物を次々に好演し、今度は全国を流浪する伝説の剣客・緋村剣心として主演する。兵庫・宝塚大劇場は5日~3月14日、東京宝塚劇場は4月1日~5月8日。

 きゃしゃで端正な顔立ち。漫画定番の“二枚目”を体現したような容姿に加え、卓越した演技力で2次元にリアルを吹き込む。

 「原作に忠実でありたい。生身の人間でも納得できるものにしたい。やっぱり剣心は剣心であるべき。私、早霧せいなが出てくるのはいやなので」。軽薄にならない軽妙なルパン三世を好演した経験も生きる。

 「今思うとルパンは、誇張しやすいキャラクターでした。(漫画原作の)経験は大きいですが、ちょっと違う。剣心って、漫画では丸い目が(驚きを表現して)ギーンってなるんですけど、それをどうやろうか(笑い)。テープで(目を)つり上げようかとまで考えたんですけど、舞台だとそのたび、後ろ向いてテープ貼るわけにもいかないし」

 突拍子もない考えをする。真正面から役柄と向き合う。早霧らしい役作りだ。

 「今までやってきた自分の勘を信じて、どの程度までなら(誇張も)いいのか、バランスを考えて」

 剣心は、幕末に「人斬り抜刀斎」として恐れられた伝説の剣客だが、明治維新後は全国を旅していた流浪人。どこか憎めないキャラクターで、美少女のような風貌とは裏腹な剣の腕といい多面性を持つ設定だ。

 「クールな人斬りとしての顔と、どうバランスをとるか」。笑わせて泣かせ、しびれさせる。メリハリは、早霧の持ち味でもある。

 「人は誰でも多面性があると思っているので、そこをちゃんと見せて。ただ今回、赤い着物がトレードマークで、あんまり着替えない。つまり出ずっぱり。もう今、赤(えんじ)が…赤色を見たくないですっ!」

 そう言いつつも、取材日のネクタイは剣心の着物と同じえんじ色だった。

 「そうなんですよ。一応ね。今回、演出の小池(修一郎)先生も妥協を許さない。敬意を込めて言うと『しつこい』です(笑い)。私も負けていられない」

 今回はショーとの2本立てではなく、トップ就任から初の芝居の1本もの。入れ込み度合いが強い。

 「目の前の物に集中しちゃうので、ショーと2本あれば、勝手に気分転換できていたんだなって。舞台に出遅れる夢とか、全然、着替えられない夢も見るし、今は剣心づくしです」

 宝塚版剣心では、洋館での舞踊場面があり、歌舞伎界の指導を取り入れた殺陣も見どころ。手の細かい動きにも留意する。

 「剣心も仲間に出会い、私も雪組の仲間がいるからここまで来られている。そこは共感できますよね」

 就任から約1年半。組の充実も感じ、アドリブにも期待が高まる。「やりたくなるでしょうね」と笑う。

 「これからも変化、進化を遂げ、慣れちゃいけない。今の環境が普通と思ってはダメ。毎回、新鮮に謙虚に、うぬぼれないように」

 9月に退団する月組トップ龍真咲は同期。早霧は「トップの先輩」と呼ぶ。「常に先を歩くまさお(龍)がいるから、快く進めた。最後の宝塚での生きざまを目に焼き付けたい」と言い、自らはこん身の剣心に臨む。【村上久美子】

 ◆浪漫活劇「るろうに剣心」(脚本・演出=小池修一郎氏) 原作は、和月伸宏氏の「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」。94年に週刊少年ジャンプで連載が始まり、シリーズ売上は累計5900万部を超える。アニメ、映画化もされた大ヒット作を、小池氏が宝塚で初ミュージカル化。オリジナル作になる。幕末に「人斬り抜刀斎」として恐れられた伝説の剣客・緋村剣心は、明治維新後に「不殺(ころさず)」を誓い、流浪人として全国を旅していた。神谷薫との出会いや、宿敵との戦いを通じて、新たな時代での生き方を模索する姿を描く。

 ☆早霧(さぎり)せいな 9月18日、長崎県佐世保市生まれ。01年「ベルサイユのばら2001」で初舞台。宙組配属。06年「NEVER SAY GOODBYE」で新人公演初主演。09年に雪組。13年「ベルサイユのばら」でオスカル役。14年10月に「伯爵令嬢」でトップ初主演。昨年1月「ルパン三世」で本拠地トップお披露目。今年は6~8月に外部劇場で「ローマの休日」主演予定。身長168センチ。愛称「ちぎ」。