「現代用語の基礎知識選 2016ユーキャン新語・流行語大賞」が1日、都内で発表された。今回で33回目となり、年末の風物詩となった感がある一方、各選考委員の言葉からは、新語・流行語のあり方が変容してきていることを、感じずにはいられなかった。

 姜尚中東大名誉教授(66)は発表・表彰式の冒頭で、選考委員の共通見解として、ネット社会が新語・流行語自体の質を変えていると指摘した。

 「非常に不確実な時代で(今年は)非常に過激で、とがった言葉が多かった。選考委員の皆さんは『ネット社会の増幅装置みたいなものが、言葉をある意味においては、非常にとがったものにしているんではないか』という。私も大体、そういう印象を持ちました」

 歌人の俵万智氏(53)は、インターネットが近年、社会全般に普及したことによって、各年代が共通認識できるという新語・流行語の本来のあり方が立ち戻ってきたと指摘した。

 「一時期、流行語がちょっと難しいというか、各世代の嗜好(しこう)、興味の対象が細分化されてきて、全ての世代が共通で面白がったり、流行ったりする言葉が減ってきた時期があった。ここのところ、逆に“より戻し”と言うか、流行語が豊作の年が続いているなと感じる。姜さんがおっしゃったように、1つはネットが背景にあって、1つ流行った言葉を伝える力が非常に強く、速く作用しているのかなと思います」

 その上で、今年の選考会を通して、新たな動きも出てきたとの見解を示した。

 「1つの現象に対して、複数の言葉がワーッと生まれてくる。ゲス不倫、文春砲、センテンススプリング、卒論…そんなふうに盛り上がるのは近年、なかった特徴だと思います」

 スポーツ、芸能、社会…インターネット上には、さまざまなジャンルのニュースが飛び交う。一方で、情報の受ける側のユーザーも、ツイッターやフェイスブック、LINEなどのSNSという、自ら発信し、ニュースを拡散できる手段を持っている。それが俵氏が指摘する「1つ流行った言葉を伝える力が非常に強く、速く作用」することにつながっていると言えよう。

 昨今は著名人も、冠婚葬祭の報告や発表はもちろん、世の中の事象、ニュースに対する見解を、自身のツイッターやブログで発信するようになった。そうした著名人の発信が新たなニュースとなり、その発言に対し、他の著名人がSNSでリアクションしたことまでが、新たなニュースとして取り上げられることで、ニュースや流行語が、どんどん生まれていく。それが顕著な形で表れたのが、俵氏も挙げた「ゲス不倫」だろう。

 「現代用語の基礎知識」の清水均編集長は「言葉は時代を映し出すと言いますが、時代の変化が読み取れる…言葉から時代を読み取れる意味合いも楽しんでもらえれば」と総括したが、前提として、やはりネット社会が言葉と時代を変えてきていることを示唆した。

 「トップテンやノミネート語の30を選ぶ中で考えたのは、インターネットから出てきた言葉が多かったこと、オタク系のカルチャーに由来するワードが多かったのが強く印象づけられた。トップテンの半数に、その反映が見られる」

 一方で、インターネットを背景に新たなニュースや流行語が生まれ…ということを繰り返すため、年に1回の発表では足りない、との声もあった。女優室井滋(58)は「今年は正月から、舛添前都知事の(政治資金公私混同などの)問題、不倫発覚、薬物疑惑など、さまざまなことが起こり、それに伴った言葉もたくさん、たくさん出ました。今年は前半で、もう1回、流行語大賞をやれるんじゃないかと思う」と語った。

 漫画家のやくみつる氏(57)も「上半期だけでも、というお話がございますけど、上四半期の段階でやっちゃったらどうかと、清水編集長と話した記憶もあるくらい(流行語が)豊富な年」と語った。一方で「これまで自分が関わらせていた中でも、非常にジャンルのバランスが良く取れたトップテンと納得がいったにも関わらず、残念ながら選に漏れた、いつもの年であれば入ったであろうものも、たくさんあったのも事実」と残念そうに語った。

 取材後、記者の間では、小池百合子都知事が発信した「都民ファースト」をはじめとした言葉が、トップテンに残らなかったことが意外だという声があった。記者個人の見解を言わせていただけるなら、この日、発表されたトップテンの中から「神ってる」が年間大賞に選ばれたことに異論はなかった。一方、ノミネート語の30を見た段階では正直、どれが年間大賞になるか決めがたかった…というのも正直なところだ。

 記者が今年、取材した案件を大まかに振り返ってみても、舛添前都知事の政治資金公私混同など一連の問題をへての辞任劇、清原和博氏の覚せい剤取締法違反による一連の問題、熊本地震、都知事選、小池都政、築地市場の豊洲新市場移転に関する問題など、社会的に大きな反響を呼んだ案件が多かった。それらの事象を取材する中で、印象的だと感じた言葉を原稿に書き、発信した。それに対する大きな反響を直接、感じることができたのは、やはりインターネットだった。

 一方で、室井とやく氏が指摘するように、年明けから大きな出来事が多発するあまり、発信した印象的な言葉、出来事が時がたつごとに流れていってしまうことに、むなしさを覚えたのも、またインターネットだった。4月の熊本地震を現地で取材し、16日未明に本震に遭った。夜明け前に益城町に入り、前日15日に取材した際に通った道路が崩壊し、取材中に目の前で電柱が折れた。発生から8カ月たった今でも、忘れられない瞬間だが、発生当時ほどの報道がなされていないのが現状だ。

 今回、選考委員特別賞として「復興城主」が選ばれ、受賞者として登壇した熊本市の大西一史市長が「まだまだ復興の途中にあります」と口にした言葉が、胸に刺さった。ニュースを追い、その中で生まれた流行語までも取材し、発信する側のメディアとして、次から次へと生まれていく言葉の中で、忘れてはいけない言葉を「定番語」にしていくような取材活動をしていきたいと強く思った。【村上幸将】