<舞台「ムサシ」W主演対談(中)>

 蜷川幸雄氏(73)演出の舞台「ムサシ」のけいこも、残り1週間を切った。井上ひさし氏(74)の脚本はまだ完成していない。演劇界では常識の井上氏の「遅筆」も藤原竜也(26)と小栗旬(26)は初体験。緊張の大詰めを語り合った。【構成・瀬津真也】

 遅筆で有名な井上氏の脚本は、今作も仕上がりが遅れている。蜷川舞台に多数出演してきた2人にとっても、非常事態だ。

 藤原

 初めてですからね。これまでは、けいこ前には必ず脚本はあって。

 小栗

 覚えてからけいこに入るものだった。

 藤原

 いまだに、どこに向かって芝居しているか分からないですし。

 小栗

 ボクらも未知数。初日をどんな状態で迎えるかも分からない。

 手探り状態を認めるのだが、目は生き生きとしている。

 藤原

 家に帰ってセリフ覚えて、翌朝にけいこ場に来ると、また新しい原稿が出来上がってて、それをまた覚える毎日。

 小栗

 本当にボクは、こんなに遊んでないのは数年ぶり。

 藤原

 皆好きなのに、酒もないもんね。

 小栗

 (多忙だった07年の)「カリギュラ」を演じたときも、遊ぶ時間はなかったけど酒は飲んでた。今回ははっきりいって飲んでる余裕はない。でも、それが心地よいし、プロとして仕事ができてるのかもと思えてる。

 藤原

 焦りもありますよ。何で今月は28日までなんだよ~とか(笑い)。でも、それは楽しみでもある。

 小栗

 最近変な夢を見たんです。実は本も出来上がってて、蜷川さんだけは全部知ってる。でも、オレらをこういう環境にして楽しんでるのかもっていう夢。

 藤原

 なるほどね。

 小栗

 井上さんは遅筆っていわれるけど、実はそうじゃないの。小屋にいる座付き作家が毎日、本をバンバン書いて、役者は1週間のけいこで本番を迎えるっていう昔の演劇のつくり方。井上さんはそれがすごく好きな方で、同じように常に役者に緊張感を持たせてやってるのかも、という読み取り方です。だとしたら、今のボクらには、この状況が必要だったんですよ。

 藤原

 けいこ場はいい緊張感だね。未完成なことにイライラしないのは、井上先生の本が本当に面白いからでもある。いつも、その先が読みたいって思う。

 小栗

 井上さんはすごい。セリフ1つ1つに、どんな思いが込められてるかを考えさせる本です。

 今作は、巌流島決闘後の武蔵と小次郎を描いた物語という異色作だ。

 藤原

 まず、誰も見たことがない武蔵と小次郎の作品だよね。

 小栗

 若い人なら、武蔵のイメージは、漫画家井上雄彦さんの「バカボンド」。かっこいいものだと思ってるはず。でも、全然違うことやりますから。オレたちからしたら、楽しみでしょうがない。2人のみみっちさとかも出る。だって、人間だもの。

 とはいえ、残り1週間を切った。リミットは目前。

 藤原

 大変は大変です。

 小栗

 でも、このけいこ場には、大変だって顔をしている人は1人もいない。オレは、ここでけいこするのが、大好きなんですよ。

 藤原

 けいこが面白いね。このまま初日まで突っ走って楽しんでるって気がする。

 ◆藤原竜也(ふじわら・たつや)本名同じ。1982年(昭57)5月15日、埼玉県生まれ。蜷川幸雄演出「身毒丸」の主演オーディションで選ばれ、97年ロンドン公演で舞台デビュー。「唐版滝の白糸」「ハムレット」「ロミオとジュリエット」など蜷川作品のほか、野田秀樹演出「オイル」に主演。主演映画「バトル・ロワイアル」「デスノート」が大ヒットし、04年NHK大河「新選組!」に出演。178センチ、血液型A。

 ◆小栗旬(おぐり・しゅん)本名同じ。1982年(昭57)12月26日、東京生まれ。小6で児童劇団に入団。95年のNHK大河ドラマ「八代将軍吉宗」でデビュー。連ドラ「貧乏男子」「花より男子」などに出演し、映画は「あずみ」「キサラギ」「クローズZERO」、舞台「カリギュラ」がある。父小栗哲家氏はボローニャ、ウィーン国立歌劇場の日本公演を手掛ける舞台監督。183センチ。血液型O。

 ◆「ムサシ」は、さいたま市彩の国さいたま芸術劇場(3月4日~4月19日)と、大阪梅田芸術劇場(4月25日~5月10日)の約2カ月間で全74公演。さいたまの前売り券は完売。大阪は28日発売で、問い合わせ先は梅田芸術劇場。

 [2009年2月26日15時34分

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