作家浅田次郎氏(62)の短編小説「柘榴坂(ざくろざか)の仇討(あだうち)」が映画化され、中井貴一(52)が主演することが3日、分かった。主人公は桜田門外の変で暗殺された井伊直弼の敵討ちを命じられた彦根藩士。幕末から明治期へ変わる激動期に翻弄(ほんろう)されながら誇りを持って生きる姿を描く。

 「柘榴坂の仇討」は04年の短編集「五郎治殿御始末」に収められた短編。義を貫く登場人物の姿が浅田作品の中でも人気が高く、ファンの間で映像化を望む声も強かった。映画は敵討ちをめぐる武士2人の人生の交錯が見どころで、主人公を中井、相手役を阿部寛(49)が演じる。

 中井にとって浅田作品の映画主演は03年「壬生義士伝」以来11年ぶり3作目。浅田ワールドを最も濃密に体感してきた俳優といっていい。「時代劇離れと言われる昨今、日本人が本来持っている本当の『心』の文化のようなものを力いっぱい注ぎ込んで、何かを感じていただけるような映画にできたら良いなと思っています」と意気込んでいる。

 主人公の仇(かたき)となる水戸浪士を演じる阿部は「身が引き締まる思い」と言う。暗殺後に切腹を果たせなかった思いを抱えている設定で「深い人間像をどこまで出せるか難しい役ですが、とても演じがいを感じています」。

 主人公を大きな愛情で包む献身的な妻を広末涼子(33)が演じる。「素晴らしい脚本、監督、出演者の方々に囲まれ、女優として最高の現場を経験させていただいています」。また「脚本と自分の気持ちに正直に演じきることができたら、間違いなく歴史に残る日本映画になる気がしています」。

 豪華出演陣を束ねてメガホンをとるのは「ホワイトアウト」「沈まぬ太陽」などで知られる若松節朗監督(64)。撮影は間もなく終了する。松竹配給で9月公開。

 ◆「柘榴坂の仇討」

 安政7年。彦根藩士の志村金吾(中井貴一)は井伊直弼(中村吉右衛門)の御駕籠(かご)回り近習役として仕えていたが、登城行列が桜田門外で水戸浪士に襲われ、目の前で主君を失う。両親は自害、妻セツ(広末涼子)は酌婦に身をやつす。金吾は切腹も許されず、仇を追い続ける。逃亡した浪士が次々と命を絶ち、政府から敵討ちを禁じられる中、13年後の明治6年、最後の仇である佐橋十兵衛(阿部寛)を探し出す。