山田洋次監督(83)が劇作家で小説家の井上ひさしさん(享年75)の遺志を継ぐ新作「母と暮せば」(来年12月12日公開)を製作することが17日、都内で行われた会見で発表された。吉永小百合(69)が主演し、息子を嵐の二宮和也(31)恋人を黒木華(24)が演じる。3人は初共演。

 日本の家族を半世紀以上、描き続けた山田監督が、戦後70年を迎える来年、終戦後の長崎を舞台に母と息子の物語を紡ぎ出す。母の前に、3年前に原爆で亡くなったはずの息子が現れる同監督初のファンタジー。井上さんが晩年の課題とした広島、沖縄、長崎を描く「戦後命の3部作」の遺志を継いだ映画だ。

 井上さんは94年、広島の原爆で亡くなった父の幽霊が娘を支える舞台「父と暮せば」を上演。04年に映画化された。10年4月に亡くなるまで執筆した、沖縄戦を描く「木の上の軍隊」は未完も、残した資料を基に主宰の劇団「こまつ座」で昨年、上演された。井上さんが長崎を舞台に描こうとタイトルだけ決めたのが、「母と暮せば」だった。

 山田監督は、井上さんの三女麻矢さんが「母と-」の映画化を熱望していると知り「父と-」を手本に脚本を書き上げた。「娘さんと話し、僕の中に全体と俳優のイメージが浮かんだ。作り上げた頃に戦後70年を迎えるのは不思議なめぐり合わせ。時代(戦争)を知る僕らが語り、残さないといけない。生涯で一番大事な作品を作ろうという気持ちでおります」と誓った。

 「ふしぎな岬の物語」で初プロデューサーに挑んだ吉永は、10年「おとうと」以来5年ぶりの山田監督作品で一女優に立ち返る。「山田学校に帰ることができ、とてもうれしい。『母べえ』(08年)も『おとうと』も子どもは女の子で、初めて男の子の母親。どんなお母さんを作っていくかワクワク、ドキドキします」と二宮にほほえみかけた。86年からライフワークとして原爆詩の朗読を続ける。「戦後~年という言い方が、ずっと続いてほしい。戦後70年目にこの作品に出演できるのは意義がある」と平和への思いを訴えた。

 松竹120周年の来年、同社が生んだ世界的な名匠・小津安二郎監督の誕生日で命日の12月12日に公開する。撮影は来年春以降に始まり、長崎ロケも予定。映画祭を含め、世界各国での上映を目指す。【村上幸将】

 ◆「母と暮せば」

 1948年8月9日。長崎で助産婦をする福原伸子(吉永)の前に、3年前に原爆で亡くした医学生の息子浩二(二宮)が現れる。「元気かい?」と聞くと、「死んでるんだよ。元気なわけないだろう」と答え、その後たびたび現れるようになる。浩二には結婚の約束をした佐多町子(黒木)がいた。伸子は町子に好きな人が出来たら諦めるように言うが、浩二は受け入れられない。そんな息子浩二をいとおしく思う伸子…2人の時間は特別だった。