ドイツ2部ザンクトパウリに所属するFW宮市亮(23)は、リオデジャネイロ五輪代表の広島FW浅野拓磨(21)のアーセナル移籍に何を思うのか。ドイツで迎える2度目の開幕に向けチームに合流し、プレシーズンの練習をこなす宮市に聞いた。

 「(浅野選手の移籍は)インターネットのニュースで知りました。記事を読んだ程度ですが、実力を評価されてアーセナルに入るのだから、自信を持って行ってもらいたいと思います」

 素直に喜んでいた。浅野が挑戦を決めたプレミアの名門クラブで、同じように名将ベンゲル監督に認められて正式オファーを受けてプロになり、4年半所属。その間に、複数クラブに期限付き移籍し、武者修行も経験している。

 だが、けがもあり思うような活躍はできなかった。どん底を知り、この1年半ほどで、一気にたくましくなった。奥さんはじめ、家族や周囲の支えもあり、あのころの自分を客観的に見つめられるようになっている。

 「アーセナルのレベルまでいくと、やはりメンタルの強さが大事だと思います。レベルが高く、日々のトレーニングではボール回し1つとっても、誰もミスをしない。そんな環境で、日本でそれまで通用していた部分、自分の良さを見失ってしまい、悪いところばかりを考えてしまっていました。

 そのうちに、絶対にレギュラーを獲ってここで活躍してやろうという、入ったころのハングリーな気持ちが変化し、いつの間にか、どこかで自分の限界を作っていました。この選手たちと練習をこなしているだけで、何かを成し遂げたような感覚、そんな気持ちになってしまいました」

 宮市は100メートルを10秒台で走る。面識はないが、浅野とはスピードが武器のFWという共通項がある。アーセナルでのFWとしての日々。日本人では誰も知り得ない経験にも触れた。

 「世界中の皆さんが知っているようにアーセナルはパス・スタイルのサッカーです。僕の場合は、そこに合わせよう、合わせようとし過ぎました。スピードという自分の良さを出そうとしても、練習でも狭いコートでの細かいパス回しが多くなって、生かす場面があまりなくなる。

 いつの間にか、自分はスピードが武器の選手だったはずなのに、本当にうまいエジル(ドイツ代表MF)を見て、あんなテクニックがあったらなと思ってしまう。

 そうではなく、自分の良さにもっともっとフォーカスできていたら、振る舞いも変わっていたと、今になって思います」

 思うようにいかなかった日々を、冷静に分析し、消化してドイツでの再スタートを切っている。その上で、今回の浅野の移籍により、引き合いに出される自身のアーセナルでの日々が「失敗」だったのかと言われれば、それは違うと言い切る。失敗だと断じる声も受け入れた上での判断。もう、周囲に惑わされ、自分を見失っていた、あのころの若者ではない。

 「僕は18歳でアーセナルに行ったことをまったく後悔していません。18歳にして本当に、目の前、日常にトップレベルがあって、そこに入っていけるわけです。入ってみないと分からない世界ですから。間違いなく、もう1度、18歳の時に戻っても同じ選択、アーセナルを選びます。

 1歩前、すぐそこ、目の前に、すごいレベルの世界が広がっている。その日常を肌で感じられた。自分の選択を失敗だとは、一切思っていません。

 もちろん、短期的なアーセナルのキャリアだけ見れば、失敗と判断されるのかもしれません。でも、僕のキャリアはまだまだ続いているし、あの時の経験があるからこそ、この先、成功できると思っているので」

 宮市は、後に続く浅野の成功を素直に祈っている。そこにはこんな理由もある。日本サッカーがもっともっと強くなることができる、そう信じているから。日本代表ハリルホジッチ監督が追跡している宮市も浅野も、その切り札となることができるだけの才能を持っている。

 「日本代表が、これからもっと強くなっていくには、アーセナルに行く浅野選手のような存在が、どんどん増えていく必要があると思います。おこがましいですが、僕で良ければ、何でも、いつでも相談に乗りたいと思います」

 はっきり、しっかりこう答えると、新シーズンの1部昇格を目標にピッチをあげるチームの午後練習に向かった。【八反誠】