「見に来てよかった」

 ブラインドサッカー国際親善試合、日本対ブラジルの試合を観戦し、心からそう思えた。以前から、さまざまな場面でブラインドサッカーの選手たちと話す機会があったが、アスリートはやはりフィールドで輝く。その勇姿を目の前で見てさらに心揺さぶられるものがあった。

 観戦者は約1200人、報道陣もひしめき合っていた。協賛企業による大型スクリーンも素晴らしく、会場を華やかに演出させた。人数の多さは、注目度の高さを感じたし、プレスリリースなど細やかな対応をした日本ブラインドサッカー協会の努力のたまものでもあると感じた。

日本対ブラジル 前半、相手選手に囲まれながらゴール前にパスを出す日本FP黒田(右)(撮影・浅見桂子)
日本対ブラジル 前半、相手選手に囲まれながらゴール前にパスを出す日本FP黒田(右)(撮影・浅見桂子)

■王国ブラジルと国際親善試合

 まず、ブラインドサッカーはフットサル(5人制のミニサッカー)を基にルールがつくられ、時間は前・後半各20分のプレーイングタイムで構成されている。ボールを持った時は、相手に自分がボールを持っていることを知らせるために「ボイ」と言わなければならない。選手同士の接触が多く激しいブラインドサッカーならではの、ルールだ。

 ゴールキーパー以外は全盲の選手がプレーをする。またゴール裏に声を掛け専門のガイド、自陣サイドフェンス外側に監督がいる。サッカーの技術以外にも、音と声掛けがとても重要なスポーツだと言える。

 タッチラインはなく、フィールド全体を壁で覆われている。その壁にも、激しく選手はぶつかる。壁にボールをあてることにより、味方にも、敵にもボールがどこにあるか、示す役割も担う。そのボールには鈴が入っていて、蹴ると音がするのだ。

 試合結果は、1-4で世界ランキング1位のブラジルに敗れた。それでも世界最強チームから1点を取れたことは収穫だった。

 高田敏志監督も「今までの日本のスタイルは守備に重きを置いたプレーだった」と話す。しかし、今回は「敵陣でプレーをし、ボールをキープする時間を増やした」。前半同点ゴールを決め、優秀選手賞に選ばれた黒田智成選手も「攻めるサッカーをしました」こう話した。昨年のリオデジャネイロ・パラリンピックでは、参加できなかった。この悔しさから、攻めることにこだわりを持ってサッカーをより理解し、「サッカーを楽しめている」。高田監督は選手の変化に喜んでいた。

 「10回中1回でも勝てればいい、それがパラリンピックであることを目指す」

 日本代表としてのプライドを持ち、自分たちのサッカーを確立していく。

 ブラジル代表ジョジナウド・ソウザ監督も「日本は変わってきた。今やっていることは間違いではない、コツコツ努力を積み重ねて行って欲しい」と評価している。

日本対ブラジル 前半、シュートを放つ日本FP川村(撮影・浅見桂子)
日本対ブラジル 前半、シュートを放つ日本FP川村(撮影・浅見桂子)

 ブラジル代表のフィジカルの強さ、テクニックの高さにはビックリした。パスがつながり、接触プレーにも動じないスキル。さすが、ブラジルと感じる場面が多かった。「世界選手権で優勝し、パラリンピックのステップにしたい」。MVPをとったハイムンド・メンデス選手も頂点を見据えた発言だった。そのメンデス選手はボールが足に吸い付いたようなプレーをする。ガイドや、キーパー、監督の声を聞き分け自分がどこへ行けばよいのか即座に判断する能力には、くぎ付けになってしまった。

■障がい者スポーツの役割とは?

 今回のブラインドサッカーだけにとどまらず、パラ・アスリート全体に言えることは、話しをしてみると、社会において自分の役割とはどういうものなのかとすごく考えている選手が多い。これらも彼らの魅力の1つであると感じている。

 寺西一選手はサッカーを始めて「もっと外に出て人と話したい」「サッカーを始めて人と交流できることがとてもうれしい」。こんなことを感じたようだ。アスリートである彼らは同じような障がいを持つ人たちにも勇気を与える存在だ。

 「外に出たいけど出られない」

 さらに障がい者スポーツが、社会にできる役割は計り知れない。ダイバーシティ(多様性)や、グローバル化がうたわれている現代。その意味と理解を深めるために、彼らはスポーツというフィールドで勝利を目指しながら、パイオニアとしても闘い続ける。

【伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表】

日本対ブラジル 試合を観戦取材する伊藤華英さん
日本対ブラジル 試合を観戦取材する伊藤華英さん