全国総体の静岡県大会。試合後、試合に出場した選手が引きあげる中で「いくよ!」という大きな声がピッチに響く。出番のなかったベンチの選手たちをうながし、グラウンドでの練習が始まった。短い金髪に、長い手足。声の主は現役時代に清水で活躍し、柏や神戸でGKコーチを務めたシジマール氏(52)。今は、浜松市にある浜松開誠館高サッカー部のGKコーチだ。

 Jクラブでは、所属するGKは多くても4人くらい。しかし現在、同校サッカー部のGKは17人もいるという。その中で差をつけず、全員を同じように指導しているという。しかし、1人で17人を指導するのは容易ではない。キャッチングの練習をする場合は、1人でシュートを打ち続けることになる。「全部打つから、足が痛いよ」と笑いながら太ももをさすった。

 就任したのは、今年2月。ブラジル人ながら流ちょうな日本語をあやつり、言葉の壁は感じさせない。持ち前の明るさと、大きな声は、チームにいい影響を与えていた。選手たちからは「シジさん」と慕われている。「シジさんが盛り上げてくれて、奮い立たせてくれる。チームの雰囲気が明るくなったと思う」と話す選手もいた。

 学校の近くに住み、朝は7時過ぎから、夜まで高校サッカー漬けの日々。今年、浜松開誠館高は初めて、全国総体の静岡県大会決勝(7日・エコパ)への進出を決めた。「大変だけど、楽しいよ」。いつもの笑顔が、さらに輝いて見えた。

 ◆保坂恭子(ほさか・のりこ)1987年(昭62)6月23日、山梨県生まれ。埼玉県育ち。10年入社。3年間サッカーを担当し、13年から五輪スポーツ担当へ。14年ソチ五輪後、再びサッカー担当に。4月まで松本、川崎F、湘南を担当し、5月から静岡支局に異動。シジマールとは、10年柏担当時代に出会い、握手をする際の握力の強さに驚いた。