「ありがとう村上 仙台で2度プレーしてくれて」-。

 11月22日にJ1リーグが今季最終戦を迎えた。川崎F対仙台が行われた等々力陸上競技場。ベガルタゴールド一色で染まったビジター席の最前列に、ひときわ目立つ、白地に黒い文字で書かれた横断幕が掲げられた。

 最終節を前に、任期満了選手としてクラブから発表があった34歳のDF村上和弘への感謝の横断幕。退団濃厚という事実に別れを惜しむサポーターたちが、手書きで書いたものだ。しかし、村上本人の姿は等々力にはない。天皇杯が残るチームとしては、最後の雄姿もそこで見られる可能性もあることはあるが、18人の遠征メンバーに選ばれず、横断幕だけが会場でなびいていた光景は、何とも切なく見えた。会場で偶然すれ違った何人かのサポーターからは「どうして村上は来ていないの?」となぜか記者が質問を受けた。

 村上は昨季7年8カ月ぶりに仙台にカムバックしたベテランだ。01~04年を仙台、その後は川崎、大宮を経て14、15年を仙台でプレーした経験豊富な選手。今季もナビスコ杯1試合の出場にとどまってはいたが、練習から誰より声を張り、明るく元気に一生懸命な姿は「おとなしい」と言われる仙台において、貴重な存在だった。「しょうじさん(村上)がコートにいるだけで良い意味で雰囲気が変わる」「安心感があってやりやすい」などチームメートからの信頼も厚く、その存在感は、ただのムードメーカーではない。また、なでしこリーグを戦うベガルタ女子部、仙台レディースのホームゲームも毎試合といって良いほど観戦に訪れる姿があり、サッカーに対する熱量の高さも群を抜いていた。

 何が言いたいかというと、7年間に渡り活躍し、これだけの存在感を残した選手があいさつなしに今シーズンの最終戦を終えてしまったのは悲しいということ。実際、最終節の前1週間の練習では非常に調子も上がっており「コンディションが良い」と話すスタッフもいた。チーム事情もあったとは思うが、契約満了はすでに発表済みであり、先発11人+交代枠3人の試合に最低限必要なのは14人。残り4人のうちの1人に入り、等々力で自らの目で横断幕を見て欲しかった。

 村上は「来シーズン、また選手としてお会いできるよう頑張ります」と現役続行を目指す。どんな新シーズンが待っているかはまだ分からないが、「ありがとう村上 仙台で2度プレーしてくれて」の横断幕が示すように、仙台で愛されたプレーヤーだった。


 ◆成田光季(なりた・みつき)1989年(平元)5月6日、東京都練馬区生まれ。5歳から始めた体操競技歴は15年。中学、高校時代に日本一を5回経験。明大から12年に入社。整理部1年半を経て、13年から東北のアマチュアスポーツを中心に取材。15年から仙台担当。