J2磐田はホーム最終戦で横浜FCと引き分けた。3位福岡とは勝ち点79で並んだが、得失点差で自動昇格圏内の2位を死守した。試合後、名波浩監督(42)は、父の名波元一(もといち)さん(享年76)を今月12日に亡くしていたことを明かした。23日の最終節アウェー大分戦で勝利し、天国の父に磐田のJ1復帰を報告する。

 ホーム最終戦のセレモニーで、名波監督は顔を手で覆うようにしてピッチを歩いた。メーンスタンドに招待していた家族の顔が目に入ると、抑えていた感情があふれ出した。選手たちが笑顔でスタンドに手を振り声援に応える中、1人涙が止まらなかった。

 2日前の12日夜、父の元一さんが亡くなっていた。試合後の監督会見で「私事ですが」と明かした。元一さんは、10月末に体調を急変。それまでは元気で、ホーム2連戦の前節長崎戦(4-2)と今節は、観戦予定だったという。「スタジアムに来る予定だったのが、(シーズン)残り2試合まで体が持たず、逝ってしまった」。持参したタオルで何度も涙をぬぐい、言葉を絞り出した。「最後、この10日間くらいは心のバランスを保つのが非常に厳しかった。何を考えて、どう行動を起こすか、正しいジャッジができなかった」。訃報はコーチ陣らスタッフのみに伝え、クラブ側にも知らせていなかった。母の祥江(よしえ)さんは07年1月に亡くなっており、両親を失った悲しみを隠し、笑顔で普段通りに振る舞っていた日々を振り返った。

 試合は横浜FCの堅守を崩せず引き分けに終わった。だが、自動昇格圏内の2位を守った。勝ち点79で並んだ3位福岡には得失点差5のリード。自力でJ1昇格を決めるには、次戦アウェー大分戦での勝利が絶対条件になる。試合後のミーティングで初めて元一さんの訃報を聞いた選手たちは、指揮官の熱い思いを受け止めていた。

 MF小林祐希(23)は言った。「もっと燃えないといけないと思いました。どれだけの思いで、ピッチに立てるか。勝ちしか見えていない」。DF宮崎智彦(28)も「名波さんを胴上げしたい」と力を込めた。

 もう、勝つしかない。J1復帰への気持ちはさらに高まった。サポーターにあいさつをする選手たちの後ろ姿を見て、名波監督は「こいつらならやれる。磐田に勝ち点3を持って帰ってくると確信した。次節への思いがより強くなった」と言い、前を向いた。選手が監督を思い、監督が選手を信じる。最終節に、磐田最大の強みを見せつける。【保坂恭子】