連載「取材ノートから」では、担当記者が今季を振り返る。今回はACミランの日本代表FW本田圭佑(29)の発言の真意に迫る。10月のセリエAの試合後、ミランの低迷を受け、取り巻くすべての状況への批判ともとれる強烈な発言をした。歯に衣(きぬ)着せぬこの発言を境に出番が激減。本田は何を思い、何を伝えたくて声を上げたのか-。約1週間前のコメントに答えがあった。

 約3カ月前だから、3冊前になる。取材ノートを引っ張り出し、もう1度見返してみる。

 そこに答えがあった。

 走り書きだったため、念のため音声データで確認してみた。9月末、ミラノで日刊スポーツの取材に本田は確かにこう言っていた。「極端に言えば、出番がない時もサブでもチームが勝てばそれでいい」と。

 “事件”は、それから1週間後に起きた。10月初旬。大敗したナポリ戦後のサンシーロ・スタジアムの取材エリアで珍しく立ち止まると、約7分間もミランの問題点を語った。

 その内容は批判と取られても仕方ない強烈なもの。対象はクラブ、監督、サポーター、イタリアサッカーそのもの、そしてメディアにまで及んだ。ピッチ上でのプレーだけでの改革は限界。自身の力不足を感じつつ、ミランの壊滅ぶりはもう待ったなし。だから声に出して世に問うた。ミラン再建への提言。それは明らかな意図があった。

 発言は翌日にはイタリアでもほぼ正確に翻訳されて大きく報じられた。ただ本田の巻き起こした嵐。効力は数日だった。その後、発言は埋もれつつある。この試合を境に出番が激減。いつの間にか、出番がないことを理由に文句を言った-そんな構図になってしまった。

 選手である以上、試合には出たい。だが、今季は冒頭に記した信念-自身の出番よりチームの勝利最優先の姿勢で腹を決めて臨んでいる。どんな状況になろうとしっぽを巻いて出て行くようなまねはしない。過熱する一方の冬の移籍報道は、ただの与太話にしか思えない。それもこれも、冒頭のコメント、答えを聞いているからだ。

 言うべき時には恐れず言う。これは本田の流儀だから、その後の歯に衣着せぬ強烈な発言も理解できる。

 ただ1つだけ。本田らしくないと思う点がある。試合後の発言は日本の報道陣相手に日本語で行われた。加えて「イタリアのメディアに伝えておいてください」と念押しした。単純に格好良くない。

 すでにチームメートとはイタリア語でやりとりしている。つたなくてもいい。イタリア語でイタリア人に話すべきではなかったか。すべて英語でやりとりした14年1月の入団会見が印象的だっただけに、余計にそう感じた。【八反誠】

<本田の10月4日ナポリ戦後の主なコメント>

 「この敗戦から何かを学ばないと、いつまでたっても(チーム)再建というのはほど遠い」

 「(このままでは)ある程度誰がやっても無理だというのはもう分かったと思う。(マンチェスター)シティやパリサンジェルマンくらい(強化に)お金を使うか、そうでないのであればやはりもう少しストラクチャー(組織)の部分から見直していかないといけない」

 「選手が気付いていてもこのチームは変わらない。やはりトップの人間、経営陣が気付く、そして監督が気付く、選手たちが気付く。と同時にファンたちも気付いていかないと」

 (ミハイロビッチ監督が選手の精神面を問題視していると問われ)「それはどういうことなんですかね。選手に責任があるという話をしている時点で、ナンセンスだと思う」

 「イタリアのメディアに伝えておいてください、僕の話したことを。またさんざんっぱら僕のことたたくんでしょうけど」