<親善試合:バレンシア2-1ACミラン>◇17日(日本時間18日)◇バレンシア

 ACミランのW杯日本代表FW本田圭佑(28)が、バレンシアとの親善試合(アウェー)で約25メートルの直接FKを決めた。公式戦では約1年ぶり、ミラン加入後初のFK弾だった。W杯ブラジル大会では1勝もできず1次リーグ敗退。ミランでも厳しい定位置争いの渦中にいる。試合は敗れたが、どん底からはい上がる覚悟を示し、その大きな1歩となるゴールだった。

 本田の鋭い直接FKが右ポストをたたきゴールに飛び込んだ。0-1の前半28分。距離約25メートル、3枚の壁を越え、横っ跳びしたGKの指先をかすめるようにして生まれた。自ら得たFKだった。駆け寄ってきたチームメートにどうだとばかりに声をかけ、笑顔で左手の先をクルクル回した。

 従来の無回転とは球筋が違った。大きく巻き込むような蹴り方でもなかった。その両方の特性を備えた速くて鋭いボール。まるで野球の高速スライダーのような軌道。メッシ(バルセロナ)とロナルド(Rマドリード)のPKを止めた経験も持つGKジェゴアウベスの壁を破った。

 公式戦では日本代表で決めた昨年8月14日ウルグアイ戦(宮城)以来、約1年ぶりの直接FK弾だ。本田より力強く正確なFKを蹴るFWバロテリがいるミランではキッカーを務める機会も激減しており、移籍後は初。バロテリの欠場で巡ってきた好機をモノにした。辛口の情報サイト「ミランニュース」ではビティエッロ編集長から「真珠のようなFK」と評価された。

 どん底からはい上がるために結果が必要だ。W杯では大きな期待を背負いながら1勝もできず1次リーグ敗退。最終戦となったコロンビア戦直後には「優勝とか言ってこの結果。口だけで終わってしまって非常に残念」と言った。出直すはずのミランでも、厳しい定位置争いの渦中にいる。ゼロどころかマイナスからのスタート。新体制となり4年後を目指すアギーレジャパンでも、かつてのような絶対的な地位は約束されていない。道のりは相当険しい。

 ただ、幸いなことに本田には武器となる左足がある。W杯後、約1カ月の長期休暇中に4年後を見すえ今回のW杯を振り返った。そして7月下旬に自身の公式サイトに思いをつづった。そこに改善点の1つを「強みの最大化」と書いている。関係者によれば、これは左足のキックを意味する。この試合、同じセットプレーの左CKで信じられないようなミスキックを2度した。ゴールライン上、2階席上部あたりまで届く大きな弧を描く、アメリカンフットボールのパントのようなキックになった。新しい球筋を生み出すため試行錯誤している可能性もある。

 非公開の練習試合も含め、これで2戦連続ゴール。31日ラツィオ戦から始まるセリエAの開幕スタメンに当確ランプをともすFK弾だった。これが逆襲への第1歩となるかもしれない。<本田のメモリアル直接FK弾>

 ◆右45度無回転

 ▽北京五輪アジア2次予選(07年5月)

 U-22(22歳以下)日本代表として戦った香港戦で右45度の位置から無回転で、1度右に出てそのまま大きく左に変化する軌道の直接FKを決めた。

 ◆30メートルの無回転

 ▽欧州CL(10年3月)

 CSKAモスクワ移籍後、決勝T1回戦のセビリア戦で約30メートル日本人選手としては初の決勝Tの得点で、大会が欧州CLに改編されてから初の8強入りだった。

 ◆右寄り無回転

 ▽W杯南アフリカ大会(10年6月)

 日本代表として1次リーグ突破をかけデンマーク戦。前半17分、右寄りの得意な位置から無回転FK弾を決める。日本はこの試合を制し決勝T進出。

 ◆今季のACミラン

 低迷脱出の切り札としてOBでユース監督だったインザギ監督が就任。前線にフランス代表歴のあるメネズ、DFに元ブラジル代表アレックスを補強。さらにW杯コロンビア代表DFアルメロと正GKとしてRマドリードでレギュラーを張ったロペスも獲得。システムは4-3-3でトップ下はなく本田は右ウイングでの起用が続く。ニアンやエルシャーラウィという圧倒的スピードを持つFWとの定位置争いが待つ。開幕は31日(日本時間9月1日午前1時開始)のラツィオ戦。