渡部香生子(18=JSS立石)が準決勝で出した日本記録2分9秒61を大幅に塗り替える2分8秒45の日本新記録で銀メダルを獲得した。今大会の日本競泳陣メダル第1号。12年ロンドン五輪では15歳の高校生スイマーとして出場も、大会直後から不振に陥った。13年5月からシドニー五輪銀メダルの中村真衣らを育てた竹村吉昭コーチ(59)に師事。初の世界大会メダルで、本命の100メートル、200メートル平泳ぎと出場全種目でメダル獲得を狙う。

 前半の2種目を最下位の8番手で終えると、先月のスペイン・グラナダ合宿で習得した勢いよく回るターンで得意の平泳ぎに入る。なめらかに水面を滑るように泳ぐと一気に差は縮まり、ラスト50メートルでメダル圏内の4位に上がる。ラスト50メートルの自由形は30秒11で泳ぎ、さらに2人を抜き去った。準決勝でマークした自身の日本記録を1秒16も更新しての銀メダルに渡部は「こんなタイムが出るとは思ってなかった。まさか2番が取れるなんて。本当にうれしい」とこみ上げるうれし涙を抑えられなかった。

 12年ロンドン五輪では日本選手団最年少15歳で出場した。前途洋々のはずだったが、直後から不振に陥った。繊細な性格の15歳。周囲からの期待への重圧など、さまざまなことが絡んでバランスを失っていく。そんな危機的状況だった2年前に出会ったのが五輪メダリストを育てた竹村コーチだった。

 「苦しい時は頑張っている時。つらい時、しんどい時こそ、笑顔を出そう」。笑顔が合言葉になった。竹村コーチは上から頭ごなしの指導は一切しない。「今日どうしたの」と同じ目線に立って指導してくれた。繊細な渡部が不機嫌になっても、忍耐強く、コミュニケーションを取った。

 6月から日本をたつと、フランス、スペインでの合宿を経て開催地のロシアに入った。初の長期の海外生活。当初は先の見えない不安から「自信がない」とうつむくことがあった。6月下旬のフランス・カネ合宿。竹村コーチからは「休もう」と言われ、浜辺に連れていかれた。「恋人気分で話した」と竹村コーチ。2人の固い絆が、2年間の急成長につながった。

 本命は平泳ぎにある。4日の100メートルはメダル、7日の今季世界ランク1位のタイムを持つ200メートルでは頂点をうかがう。18歳がロシアで旋風を起こす。

 ◆渡部香生子(わたなべ・かなこ)1996年(平8)11月15日、東京都葛飾区生まれ。4歳から水泳を始める。中学3年の11年ジャパンオープンで100、200メートル平泳ぎの2冠を獲得。12年日本選手権200メートル平泳ぎで2位に入り、ロンドン五輪代表。ロンドン五輪は準決勝敗退。13年世界選手権は200メートル個人メドレーで準決勝敗退。100メートル平泳ぎで予選落ち。昨年パンパシとアジア大会の200メートル平泳ぎで金メダル。早大1年。166センチ、58キロ。

 ◆過去の日本女子個人メドレーでのメダル獲得 200メートル個人メドレーでのメダル獲得は渡部が初めて。400メートル個人メドレーでは、田島寧子が98年の世界選手権パース大会で銅メダルを、00年シドニー五輪で銀メダルをそれぞれ獲得している。