床の王者が、進化した。白井健三(19=日体大)が世界選手権で優勝した床運動で新技を披露。G難度のリ・ジョンソン(後方かかえ込み2回宙返り3回ひねり)を伸身で実施し、世界で初めて成功させた。来年2月の国際体操連盟(FIG)技術委員会で新技として認められ「シライ」の名が付くのは確実。来年のリオデジャネイロ五輪を目指し、「ひねり王子」が最高難度の武器を手にした。

 初めて目にする大技に、スタンドがどよめいた。最初の種目の床運動、白井は思い切って床を蹴った。体を伸ばして2回宙返りする間に、ひねりを3回。回転が早すぎて着地のタイミングが合わない。床にはじかれて足がラインから出たが、技としては成功。「課題はあるけれど、できたのはうれしい」と振り返った。

 技の難度は、かかえ込み→屈伸→伸身と上がる。回転半径が大きくなるほど、回転しづらくなるからだ。「伸身だと力がいるし、タイミングも難しくなる」と白井。偶然にも同じ技を申請したペネフ(米国)は実施せず、レムケス(オーストラリア)は失敗。成功したのは白井だけだった。

 思いが詰まっていた。今秋の世界選手権では同じ動作をかかえ込みで行うG難度の「リ・ジョンソン」で床運動の王座を奪回した。それでも「これ以上同じ構成をしても仕方がない。攻めた体操をしたかった」。練習はしていた。手応えもあった。そして、成功した。「まだ意識し過ぎる。意識せずできるようにならないと」と言い切った。

 来年2月のFIG技術委員会で認められれば、床で3つ目の「シライ」が誕生する。冨田洋之委員は「シライ3になるか、例がないので…」と次々と高度な技を成功させる白井に驚いたが「シライ」が入るのは間違いない。床では初のH難度となることも有力で、欠場して観戦したエース内村航平も「Hでなければ、納得いかない」と絶賛した。

 これまでの「シライ」はF難度だったから、白井は「最高難度の技に名前が残るのはうれしい」と話したが、実は技名への関心はあまりない。「名前は、ご褒美みたいなもの。たまたま自分しか成功しなかっただけで、海外の選手もやっている。満足せず、挑戦を続けたい」。五輪の金メダルへ、19歳の白井の進化は止まらない。【荻島弘一】

 ◆「シライ」の名が付く技 床運動で2つ、跳馬で1つある。いずれも13年世界選手権で成功させた。床運動の「シライ/ニュエン」(後方伸身宙返り4回ひねり=F難度)は事前に申請していたが、普段から国内の大会でやっていた「前方伸身宙返り3回ひねり」は国際大会で初めて成功させ大会後に申請。「シライ2」(F難度)と認定された。跳馬の「シライ/キムヒフン」(伸身ユルチェンコ3回ひねり=価値点6・0)は同一大会で金煕勲とともに成功したため、連名となった。

 ◆技の難度と演技価値点(Dスコア) 0・1点のA難度から始まり、0・1点刻みで加点されていく。「リ・ジョンソン」はG難度で0・7点。「伸身リ・ジョンソン」は、かかえ込みを難度の高い伸身に変えたことで、床運動では初のH難度(0・8点)になる可能性が高い。今大会では新技をH難度として採点したため、白井のDスコアは7・6から0・1上がって7・7。新技がG難度かH難度かは、FIG技術委員会が決める。

 ◆新技申請の手続き 大会前に申請し、FIGの技術委員会が成功したと認めれば選手の名が技につく。かつては五輪と世界選手権に限られたが、近年は拡大傾向。ただし、国内大会は認められない。一般的に新技には名字が付き、近年は同一種目で複数あると「○○2」としている。3つ以上持つ選手もいるが「○○3」の例はない。また名字が重複するとフルネームやファーストネームを使うなど、明確なルールはない。複数選手が同時に成功した場合は最近は連名になるが、過去には成績最上位選手の名が付いたこともあった。