柔道女子日本代表の園田隆二監督(39)が暴力行為をしていた問題を受け、日本オリンピック委員会(JOC)の市原則之専務理事は都内で会見した。五輪選手を含めた15人から昨年12月にJOCに告発文書と嘆願書を提出され、駆け込んで被害を直訴した選手もいたことを明かした。選手からの訴えは聞いたものの、主導的に動かず、全柔連に全選手への聞き取り調査を要請するにとどまった。問題の解決は全く見えず、スポーツ総本山のJOCに駆け込んだ選手の思いはかなわなかった。

 悲痛な叫びが届かない-。女子柔道のロンドン五輪代表を含むトップ15選手が、全柔連を飛び越え、スポーツ総本山のJOCに、暴力とパワーハラスメントを訴えてから約1カ月半。選手生命を懸けた異例の直接行動だったが、いまだに全選手への聞き取りすら行われていない。

 JOCによると、10年11月のアジア大会前の合宿では「死ね」との発言も出ていたという。小突かれ、たたかれ、蹴られるなどの暴力行為と言葉の暴力。アジア大会はもちろん、昨夏ロンドン五輪と大舞台の代表選考を控えた選手たちは不安と恐怖感と闘っていた。

 選手たちは昨年12月、JOCに告発文書と、強化体制見直しと合宿の凍結、第三者による調査を希望する嘆願書を提出。今月10日には4人、同27日には5人の選手がJOCに出向いて被害を訴えた。だが、JOCの動きは鈍い。選手たちの思いに反し、主導的な調査に乗り出さず、全柔連にゆだねた。

 JOC、全柔連の事務局同士の話し合いは続けていたが、選手の訴えから1カ月以上が経過した事件発覚1日前の28日の段階で、JOCは全柔連に全選手への聞き取り調査を要望していた。市原専務理事は「選手も事を荒立てることを望んでいない。プライバシーを尊重しなければならない」と慎重な対応の理由を説明したが、スピード感のなさは否めなかった。

 全選手への聞き取り調査は、全柔連主体で、JOC関係者も立ち会って行う。選手たちは今月の代表合宿と来月の欧州遠征前の問題解決を望んでいたが、JOCの平真事務局長は「早く(聞き取りを)したいが、選手も試合に集中して気持ちを高める時期」と実施時期のめどは立っていない。全柔連は園田監督を続投させる方針。暴力とパワハラを訴えた選手たちは不安を抱えたまま、来月5日から欧州遠征に向かう。【田口潤】

 ◆JOCと全柔連の関係

 JOCは選手強化や、東日本大震災の復興支援、アスリートの就職支援などを行っている組織。全柔連など53団体が正加盟し、6団体が準加盟。各団体の会長や理事などの役職者が、JOCの役員を兼任している。全柔連では、会長の上村春樹氏は常務理事と選手強化本部の本部長を、全柔連国際委員会副委員長の山口香氏は、理事と女性スポーツ専門部会の部会長を務めている。