<大相撲夏場所>◇千秋楽◇25日◇東京・両国国技館

 土俵上で横綱同士の「ケンカ」が起きた。結びの一番で横綱朝青龍(27=高砂)が、横綱白鵬(23=宮城野)を引き落とした後にダメ押し。怒った白鵬が、右肩で押し返す反撃を見舞った。立ち上がって鬼の形相でにらむ白鵬に、朝青龍は目を泳がせて「殴られるかと思った」と恐怖さえ口にした。大関琴欧洲(25)の初優勝で盛り上がった場所に水を差す前代未聞の大失態。26日の横綱審議委員会(横審)では、あらためて両横綱の品格が問われそうだ。

 両国国技館が凍り付いた。顔を紅潮させてにらむ白鵬に、後ずさりする朝青龍。3秒後、うろたえた朝青龍が視線を外し、白鵬も顔を下げたが、今度は館内にどよめきが起こった。

 千秋楽結びの横綱対決。両者は気合満点で立ち合った。踏み込みで勝った朝青龍が、白鵬を引き落とし、勝負は2秒2で決着も、朝青龍は両手をついている白鵬の腰をめがけてダメ押しを仕掛けた。朝青龍の手が汗ですべり、白鵬は土俵内にとどまった。続いて白鵬が覆いかぶさる朝青龍を右肩で押し返した。のけ反った朝青龍の右手が白鵬のほおにピシャリと当たる。立ち上がった白鵬の顔は、怒りにあふれていた。

 観客が座布団を投げるのも忘れる緊張の中、仕切り線に戻った朝青龍は、何度も首をひねり、苦笑いした。支度部屋に戻ると、恐怖の瞬間を振り返った。

 朝青龍

 ちょっと怖かった。殴られるかと思った。

 ダメ押しについては「相手が落ちて、自分の出足もあるからさ」と弁解。その上で、熱くなった白鵬を上から目線で評した。

 朝青龍

 まだ、若いね。でも、やっぱり熱くなるんだろうね。その辺はしっかりしてほしいよ。おれもそういうころがあったけど。

 一方の白鵬は、風呂から上がると淡々としながらも自分の正当性を訴えた。

 白鵬

 まあ、相手に先に仕掛けられたからね。ダメを押されたから…。(朝青龍の平手打ちは)覚えていない。

 両者に反省はない。だが、横綱同士が、勝負がついた後に一触即発の状態になること自体が前代未聞。放駒審判部長(元大関魁傑)は「あれ以上にならなかったから、2人を呼んで注意することはないが、見栄えのいいものじゃない」と両者に反省をうながした。北の湖理事長は「朝青龍のダメ押しは、確かに勢いというものがある。しかし、白鵬の行為はいただけない。横綱はどんなことがあってもカーッとなってはいけない」と白鵬だけを批判した。しかし、朝青龍のダメ押しはこれまでも問題となり、協会関係者の中から「あれは明らかな故意でのダメ押し」との声が出ている。

 、26日には横審が開かれ、この大失態が議題になることは確実視される。ともにモンゴル出身の横綱で、4月の春巡業では支度部屋で仲良く卓球をする姿もあった。だが、場所の千秋楽結びに起きたこの一幕が、両者に遺恨を残すことになりそうだ。【柳田通斉】