<大相撲名古屋場所>◇千秋楽◇25日◇愛知県体育館

 涙の表彰式-。横綱白鵬(25=宮城野)が泣いた。大関把瑠都(25)との力相撲を上手投げで制し、年6場所制になって初の3場所連続全勝優勝。初場所14日目からの連勝を「47」に伸ばし、北の湖、千代の富士に並んで歴代3位となる7度目の全勝Vを果たした。場所前から賭博問題に揺れ、開催すら危ぶまれた異例ずくめの場所。ファンへの感謝と綱の務めを果たした安堵(あんど)感、そして天皇賜杯のない無念さに包まれ、表彰式では涙が止まらなかった。

 白鵬の顔はゆがんでいた。優勝旗を手に、涙があふれ出てくる。横綱が、土俵の上で泣いた。前代未聞の光景に館内がざわめいた。年6場所制の定着以降では初の3場所連続全勝V、そして47連勝…。偉業をたたえるにはあまりにも寂しい、たった15分の表彰式だった。用意されたのは表彰状と優勝旗だけ。国技を一身に背負って戦った男の涙は止まらなかった。

 優勝インタビューでも何度も声を詰まらせた。「一番うれしいのは…この会場。15日間応援してくれた名古屋のみなさんに感謝です。大変な場所で…心と体をひとつにして頑張ってきました」。支度部屋で「新潟激励賞」をもらう時も泣き続けた。照れ屋の横綱は「(涙が)出たね」とだけこぼし、風呂場へ逃げ込んだ。

 入門時から見守る熊ケ谷親方(元前頭竹葉山)が代弁した。「あまり泣かない子なのに、それだけ苦しかったのだと思います。自分が一番上ですから。黙って1人でやっていたから…」。育ての親も声を詰まらせた。角界を揺るがす賭博問題。白鵬も仲間内での花札を上申し、4日には謝罪した。誰よりも愛すると自負する相撲が非難される。「賜杯」の辞退にショックを受け、8日には「国技をつぶす気か」とまで発した。

 心も体も折れかけた。信頼する付け人頭は野球賭博で休場。個人トレーナーも仲介役だったとされ契約解除した。場所前には腰に痛みを発したが、3年間体を任せたトレーナーはいない。何とか忠告を思い起こし、自ら骨を調整すると腰痛が消えたという。「相撲に対する気持ちと、日ごろの努力の結果できた」。深酒をなくし、部屋関係者が「引きこもり」と言うほど、土俵に集中した。

 24日には家族が名古屋入りした。普段なら場所中でも家族と一緒に過ごすが、今回は部屋宿舎にとどまった。千秋楽に負けたら、すべてがなくなる-。偉業への思いは土俵で実らせた。怪力把瑠都の寄りに耐え、崩れない下半身をうまく使い、最後は左上手に力を込めた。全力で記念星をつかみとり、勝って座布団を舞わせた。

 パレード後の「祝賀会」では、駆けつけた元横綱の輪島大士さん(62)にねぎらわれた。涙の理由を聞かれ「国歌が流れてね、終わったあとに土俵を見たら、いつもある賜杯がない。悔しいなと思いまして。そういう意味では今場所は思いが強かった」。悔しさをかみしめ、重圧から解放されると、思わず胸が熱くなった。

 モンゴル生まれの25歳が危機を迎えた異国の「国技」を担う。その使命感は、横綱になって一層強い。ファンの声に助けられたという一方で「もし負けたら、期待にこたえられていないんじゃないか、という怖い気持ちだった」と明かした。来場所は自身初の4連覇と、伸ばし続ける連勝に注目が集まる。土俵を死守した15日間。熱き戦いを終えた白鵬は、さらなる偉業へ突き進む。【近間康隆】