<大相撲秋場所>◇初日◇12日◇両国国技館

 野球賭博に関与して7月の名古屋場所を謹慎休場した西十両筆頭の豊ノ島(27=時津風)が、出直しの1勝を挙げた。同じく謹慎休場で幕内から陥落した、元大関雅山(33)を上手投げで破った。心労から一時は体重が10キロ落ち、部屋では新弟子時代以来の皿洗いなどを率先して行ってきた。家族やファンの後押しに、何度も涙を流して反省してきた元関脇が1場所での幕内復帰を目指す。謹慎休場明けの力士17人のうち、この日は10人が出場し、7勝3敗だった。

 何発も張り手を浴び、体をのけぞらせても、豊ノ島は土俵を割らなかった。雅山の圧力を右に逃れて懐に潜り込み、上手投げで逆転した。謹慎休場明け対決を制し、05年秋場所以来、5年ぶりとなった十両の土俵で2場所ぶりの白星をつかんだ。「勝ち負けよりも、相撲を取れたことがうれしかった」と、今にも泣きだしそうな顔で振り返った。

 取組前から感極まっていた。会場に響いた「おかえり」の声援に「グッとくるものがあった」。野球賭博に関与した元大関琴光喜関が解雇され、当たり前のように上がっていた土俵が遠く感じた。それだけに「見ていてつまらない相撲を取るよりは、熱戦を繰り広げたかった」と、ファンに恩返ししたい一心だった。

 名古屋場所には帯同したが、当然、部屋宿舎から外に出ることはなかった。その中で「場所に出ている若い衆の負担を軽くしたい」と、調理場に立った。野菜を切り、連日、皿洗いもした。8年前の新弟子時代以来だった。

 心労から体重が10キロも減った。1通の携帯メールに勇気づけられた。妹の涼さんが7月16日に男児を出産。実は涼さんは膠原(こうげん)病で「重病なのに出産直前に『巡業に来た時に、豊ノ島に赤ちゃんを抱っこしてもらうのが夢。しっかりしなきゃ』と書いてあった。妹も乗り越えたから、自分もしっかりとやらないといけないと思った」と、涙ながらに明かしたことがあった。普段は本名(大樹)の「大くん」と呼ぶ妹に「豊ノ島」と呼ばれたことに、力士としての自覚を呼び戻された。

 8月10日には姉も双子の男児を出産した。同28、29日に高知・宿毛市の実家に帰省した時には、勢ぞろいで出迎えてくれた。この日「1場所で幕内に戻りたいか」と問われ「もちろん」ときっぱり。1度は土俵際に追い込まれた元関脇は、目指す場所を再確認した。【高田文太】