<大相撲春場所>◇8日目◇16日◇大阪・ボディメーカーコロシアム

 角界期待のホープで東前頭筆頭の遠藤(23=追手風)が、土俵際の逆転劇で同11枚目の大砂嵐(22=大嶽)を沈めた。初日から7連勝だった同世代のライバルに攻められたが、抜群の相撲センスで突き落とした。初日から4連敗の後の4連勝で星を五分に戻し、史上最速タイの所要7場所での新三役昇進へ勢いに乗ってきた。

 追い詰められた遠藤が、真骨頂の粘りを見せた。力自慢の大砂嵐が右の上手を引きつけて寄ってきた。つま先立ちした右足で俵を踏みこらえた。体を左に振り、相手の左上腕を右手で突く。最後は左足だけで踏ん張ると、相手の体がわずか先に土俵についた。NHKアナウンサーが「何という土俵際の魔術師!」と実況した逆転劇。2日続けて7378人の満員札止めとなった場内は、大興奮に包まれた。

 引き揚げてきた遠藤は「血が出なくて良かった」と言った。連日のように流血していた顔が無傷だったことに目を細め「自分が残ってる感覚はありました」と、淡々と振り返った。大砂嵐は「柔らかい。チョー、うまい」と脱帽した。23歳の遠藤と、22歳の大砂嵐。入門7場所目でしこ名を改名する間もない期待の星と、アフリカ出身初の関取。ライバル物語の始まりを予感させる激闘だった。

 遠藤は「同期なわけじゃないし」と、表面上は大砂嵐をライバル視していない。一方の大砂嵐は、突っ張りも四つもできる遠藤の相撲がお気に入りだ。まだ平幕同士の2人だが、年も近く将来的に宿敵になる可能性は十分ある。審判部が、番付が10枚も違う両者を対戦させたのも、満員が見込める中日8日目の盛り上がりを見込んでのもの。朝日山審判長(元大関大受)は「これから何十回も戦うんだから。多少意識してるんじゃないの。『してない』とは言うけど、負けたくないでしょ」と2人の胸中を読む。90年代に盛り上がった「貴乃花対曙」のような図式になれば、相撲人気のV字回復も期待できる。

 遠藤にとっても、ただの1勝ではない。横綱、大関相手に初日から4連敗した後、これで4連勝。遠藤と同じく7場所目で初の上位総当たりを経験した藤島親方(元大関武双山)は「これで乗ってくるんじゃない。注目度にも、日ごとに慣れてくるはず」とみる。当時の武双山は前半戦を4勝4敗で乗り切り、後半6勝して10勝を挙げ、翌場所は関脇へと出世した。

 遠藤もあと4勝して勝ち越せば、武双山らに並ぶ所要7場所での新三役昇進も見えてくる。それでも、今は目の前の一番に集中するだけだ。「まだ中日なので。まだまだ先は長いので」。ライバルを沈めた自信も力にして、残り7日間を戦い抜く。【木村有三】

 ◆貴乃花と曙

 88年春場所に若乃花、魁皇らも含めて初土俵を踏んだ2人は、翌夏場所6日目で初対戦。曙が貴花田(のちの貴乃花)にプロ初黒星をつけた。同年秋には貴花田が雪辱。貴花田が92年初場所に14勝1敗で幕内初優勝を決めたとき、1敗は曙だった。先に優勝された悔しさをバネに曙が先に大関、横綱に昇進すると、94年九州では貴乃花が曙を下して優勝し、横綱昇進。優勝回数こそ貴乃花22回、曙11回だが、対戦成績は幕内で21勝21敗。通算も25勝25敗と互角。曙は思い出の一番に、貴花田とのプロ初対戦を挙げている。