西鉄ライオンズ(現西武)の黄金期を支えた中西太氏(日刊スポーツ評論家)が阪神佐藤輝と中野の打撃を分析した。現役時代にバックスクリーン越えの本塁打で“怪童”といわれた伝説の男は、11日が88歳の誕生日。今シーズン初めての評論で怪物佐藤輝の現状をチェックしながら上昇するための秘訣(ひけつ)を授けた。

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かつて“怪童”と称された男が高く評価したのはチーム3連勝に貢献した中野の打撃だった。

中西 背番号51の打撃にはほれぼれしたよ。低めの球はうまく拾うし、高めにきた球も打ち返した。守備はまだじっくり見ないと分からない。しかし小柄で非力でも木浪が持ち合わせていない柔軟性があるよ。阪神のショートは課題だからね。

対DeNAに2戦連続で先発出場した中野は、3本のヒットを「右」「左」「中」に打ち分けた。

中西 つまりバッティングというのは、相手ピッチャーが投げてくる球の力を利用して打つんだ。右打者でもライトに本塁打を打ったDeNAの新人牧が好例だ。ガンケルの外寄りの球を自分のお尻をたたいて(逆らわずの意味)運んだでしょ。中野は来た球にうまく反応しているということだ。同じ新人でも対照的なのは佐藤輝の打撃だね。

西鉄時代の中西氏は1953年(昭28)8月29日の大映戦で平和台球場のバックスクリーンを越える本塁打を放っている。推定飛距離161メートル。また今でいうトリプルスリーを史上最年少で達成した。

中西 佐藤輝と中野の2人は体格がまったく異なっている。でも佐藤輝に教えてあげてほしいのは、中野が示した「逆らわずにとらえる」というキーだ。現状はショルダーダウン(左肩が落ちるという意味)、右脇が空いてたためない、軸足が崩れる…。いくらなんでもこれでは打てない。やみくもと積極性も違う。あのパワーなんだからとらえたら飛んでいくんだ。体の上も下も同じレベルで動かないと。それをコーチが教えてあげないといけない。

西鉄、日本ハム、阪神監督を含む計9球団で指導者として巡回し、名選手を育て上げた名伯楽は「大きく育ててほしい」という。

中西 何食わぬ顔をしているが本人の心は傷ついているはずだ。今は手を施していないだろうが、どこかのタイミングで首脳陣は教える必要がある。若い選手が出てくるのは楽しみだ。どのチームも外国人がそろってくるこれからが勝負だけど、阪神は打つべき選手が打てば優勝する大チャンスだよ。【取材・構成=寺尾博和編集委員】