捕手にとって投手をリードする時に、打者が嫌がる球が最低1つは欲しい。

西武はベテラン内海が先発した。全盛期は右打者の外角に逃げるチェンジアップがそれに当たる。もう1つは曲がりながらも、手元で加速していると感じさせるスライダーだった。変化球は直球よりも初速と終速の差が大きいため、内海のスライダーの球質は珍しかった。タイミングを合わせて振っても詰まったり、空振りすることも多かった。

40歳になり、かつての質はない。制球力もストライクゾーンの中で要所の失投も目立つ。外角を打者に意識させてから、腹をくくり、きっちり内角に投げきることが数少ない攻略パターン。そして3回以降は打者のタイミングを微妙にずらしながら打ち取ったように、経験に基づいた打者への観察眼もたけてはいる。

捕手としては少ない武器で、どう抑えるかは頭を悩ます。だが間違いなく、後の貴重な財産になる。私もルーキー時代はベテランの斉藤明夫さんや、1学年上だがコンビネーションで抑えるタイプだった野村弘樹さんとのバッテリーは勉強になった。ロッテ佐々木朗と組むルーキーの松川も奮闘しているが、一方で投手の状態や打者の狙いを見極めた上で配球を考える点では前者の方が勉強になる。

内海と組んだのはルーキー古賀だった。初回1死、今川に対し、初球の直球後は6球連続でスライダーを続けて二塁打を打たれた。今の球質で続けるには偏りすぎて、外角へ逃げる球を交ぜる必要があった。

2死三塁からは、野村に対して外角に2球外れ、3球目に内角直球を要求。逆球になり右前適時打された。意図は理解できる。2ボールから打者の頭になさそうな内角直球を投げさせたが、内海の立ち上がりは制球が定まらず、スピードも出ていなかった。結果論ではなく、外にかわす考えを持って欲しかった。

リード以外にも目についた点があった。1年目の捕手に求めるのは酷なことを承知で言えば、古賀の捕手としてのシルエットがまだ見えていない。いい捕手には構えや全体的な雰囲気から独特のシルエットが浮かび上がる。パッと一見しても、誰がマスクをかぶっているのか分かる。

その点で言えば日本ハム宇佐見にはシルエットが備わってきた。春季キャンプでBIGBOSSからの依頼で捕手陣を指導した。その時に教えたことの1つに、キャッチング時にミットを一切動かさず、捕球面を投手に見せ続ける技術があった。投手に目標物を示し続けるためだが、宇佐見は忠実に行っている。今の球界でこの構え方の捕手はほぼいない。だからこの試合は宇佐見がスタメンマスクだとすぐに分かる。

私もシルエットが身につくのに時間がかかったし、簡単なことではない。だが1日でも早く見つけることで、一人前の捕手として認められることに近づく。古賀にはすべてが学びだと思ってほしい。(日刊スポーツ評論家)