主力が復帰したヤクルトが前半戦ラストゲームに勝ち、マジック「41」が再点灯した。新型コロナウイルス感染から復帰した山田哲人内野手(30)が16号決勝ソロを含む2安打1打点。同じく新型コロナ感染から復帰した中村、塩見も復帰後初先発した。日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(41)は昨季日本一軍団の成長、首脳陣と選手の信頼関係に「昨季より上積みを感じる」と驚いた。【聞き手=佐井陽介】

    ◇    ◇    ◇

ヤクルト首脳陣の腹のくくり方に驚かされました。1点リードの3回1死二、三塁、二遊間を後ろに下がらせた場面です。広島の三塁走者は九里投手。てっきり本塁送球か一塁送球かの判断を選手に委ねる、いわゆる「中間守備」を敷くだろうと想像していました。それでもベンチは「1失点はOK」の守備隊形を選択。15失点で大敗した直後の一戦だったから余計に「追いつかれても自分たちなら大丈夫」という選手たちへの信頼感が際立ちました。

三塁走者に投手がいると、ベンチはどうしても「あわよくば本塁でアウトに」と欲が出て、中間守備を選択してしまいがちです。それが今回のように割り切った指示を出せれば、まだ20歳でショートを守る長岡選手やバッテリーの気持ちにも余裕が生まれるものです。この場面、結局は中犠飛で同点とされましたが、ベンチと選手の信頼関係の強さを象徴するシーンだったように映りました。

ヤクルトは日本一に登りつめた昨季と比べても、各方面で上積みを感じます。村上選手はその打棒だけにとどまらず、三塁守備でも捕ってから投げるまでの動きがかなりスムーズになっています。山崎選手の打撃には時に淡泊な印象もあったのですが、この日は最初の3打席で計20球を投げさせています。塩見選手も右方向への打球の質が上がっています。

そして、何より長岡選手の台頭が大きいですね。ヤクルトは宮本慎也さんが引退されてから長年、ショートのレギュラー探しに苦労し続けてきました。そこに守るだけでなく打てる20歳が出てきたことで、チームの安定感がさらに増した気がします。捕手にしても、中村選手が元気なうちに内山選手らを育てられています。チーム内での競争、新陳代謝は今後も相乗効果を生んでいくことでしょう。

昨季の日本一メンバーが成長を続け、新戦力もきっちり登場。さらに左膝手術明けのサンタナ選手が5番に復帰したことで、今後は4番村上選手で勝負せざるを得ない場面が前半戦よりも多くなるのは間違いありません。新型コロナウイルスで選手が大量離脱した期間をなんとか耐えたヤクルト。なかなか死角を見つけるのが難しい状況です。(日刊スポーツ評論家)

ヤクルト対広島 カメラに向かってポーズを決めるサイスニード(左)と山田(撮影・丹羽敏通)
ヤクルト対広島 カメラに向かってポーズを決めるサイスニード(左)と山田(撮影・丹羽敏通)