ヒーローは、運命的に誕生した。今年の巨人との交流戦は、劇的なエンディングが待っていた。昨オフに交換トレードで加入した大田が、2戦連発と爆発した。08年ドラフト1位で巨人に入団。松井秀喜氏の背番号「55」を継承するなど、伝統ある球団を背負っていく有望株だった。巨人戦を控えた前日8日。古巣を意識してか大田は、やや興奮気味だった。「活躍出来れば良いよね」。

 27歳の誕生日が、巨人3連戦の初戦だった。「スゴイよね。マジで」。これまでの野球人生、誕生日とは無縁の日々を過ごしてきた。誕生日ケーキを食べた最後の記憶は、中学時代。無類の甘党でもプロ入り後は自らの記念日も関係なく、ガムシャラに進んできた。「バースデーアーチなんか、打ちたいよね」。節目の日に向けて、初めて芽生えた「欲」だった。

 誕生日から一夜明けた10日、1番起用で先頭打者アーチ。「野球人生の中で、価値のある1本」と受け止めた。11日には2試合連続アーチ。巨人での重圧を味わったから、日本ハムでの期待や不安も力に出来た。「(巨人と日本ハムは)いろんな意味で違いを感じるけど、巨人は一番怖いチーム」。離れても、なお感じる古巣の偉大さ。そして、新たなチームでの恩返しを誓っていた。「僕ら若手で、向かっていくしかない」。

 後日「持っていますね」と声を掛けてみると「オレが?」と聞き返された。「こんなもんじゃないよ。まだまだ、始まったばかりだから」。巨人発、頼もしい男の新たな野球道に期待している。【日本ハム担当=田中彩友美】