PL学園、東洋大、阪神タイガース…。野球のエリート街道を歩んできた男が、スーツ姿で奮闘している。左打ちの外野手として入団して6年目。戦力外通告を受け、今季限りで現役引退した緒方凌介氏(28)は、球団広報に転身した。

「あのとき、球団から声を掛けてもらって、すごくありがたかった。ここ2年間は1軍に上がれなかったので…覚悟はしてました。それに10月の宮崎でもケガをしてしまったので」

ケガに泣いた。10月15日のみやざきフェニックス・リーグで二盗を試みた際に右膝を負傷。自力で歩けず、担架で運ばれた。「右膝関節の捻挫」と診断されたが、右膝は故障歴があり「選手生活が終わった」と自覚した。2週間後、球団から戦力外を通告された。

親に伝えようとして携帯電話を握った手が震えた。「戦力外を受けたことを伝えるのは、すごく荷が重かった」。ただ、家族の反応は予想外だった。「これ以上、無理して体にメスを入れてほしくない。もちろん残念なことだけど、子どもに28歳まで夢を見させてもらった。一緒に夢を追わせてもらって、本当にありがとう」。そう言って涙することもなかったという。

「あれで救われた。自分もあっさりと新しい道に進むことができた。物事を深く考えないタイプ。やるしかないので、前向きに」

PL、東洋大、そして阪神で鍛え上げられた「ガッツ」で、与えられた広報の仕事に全力で取り組んでいる。「選手としては、あまり貢献できなかった。これからは裏方としてチームのためにやっていきたい」。その決意は熱い。さらに、父の帰りを待つ子どもたち、支えてくれる妻のためにも-。選手時代にすることはなかった左手薬指のリングが、輝いている。【阪神担当=真柴健】