毛利元就のいいハナシにケチをつけるつもりはないのだが、いつだったかSNSでこんな話を読んだ。有名な「3本の矢」のエピソードは「1本の矢は簡単に折れるが、束ねるとなかなか折れない。だから、心を1つにすれば毛利家は安泰だ」というような内容だ。

SNSは、こんな感じで突っ込んでいた。矢を3本に束ねると飛ばないじゃないか…。そう。重くては射貫くべき矢の本来の機能を果たさない。「一致団結しろ」って、お題目は素晴らしいけど、とらわれすぎると本来の役割を見失ってしまう。いささか逆説的にとらえていて、新鮮だった。

一丸も大切だが、個を尊ぶ。今季の阪神先発陣は、そんなスタイルがかいま見える。これまで基本的には登板を終えた投手も遠征に同行して調整してきたが、今季は違う。5月24日DeNA戦。青柳と高橋遥の姿は横浜になく、西宮市内の鳴尾浜で練習した。今年は先発が本隊から外れる残留調整を採用する。金村投手コーチは「甲子園で登板後、遠征1カードでまた、甲子園に戻る日程が多い。移動で疲れてしまう」と説明した。「和」を重んじる全員行動にこだわらず、長丁場のシーズンを見据えて、効率的に体力温存を図る。

ベンチの光景も、今年は変わった。昨季までは登板しない先発投手もベンチ入り。コーチも「応援したり、試合を見たり。チーム一丸、結束しようと言っている」と話していたが、今年は彼らの姿がない。1軍29人枠を活用する事情もあるが、コンディション重視の意図もあり、開幕前からベンチ入りさせない方向だった。その分だけ、登板に専念せよということか。

チームは5月下旬、総力戦で1点差試合を拾ってきた。それでもプロの世界で最後にモノを言うのは「個の力」だ。敵に向かって一直線に飛ぶ、しなやかで強い「1本の矢」を磨きたい。【酒井俊作】