先日、元DeNA投手の寺田光輝氏(29)が東海大医学部医学科の編入試験に合格した。ベイスターズでの現役生活は18、19年の2年間と短かったが、濃厚な時間を過ごした。10月から5年半の課程を修了し、国家試験に合格すると医師になれるが、プロの2年間が大きな影響を与えそうだ。

寺田投手は入団1年目、椎間板ヘルニアの手術を受けている。BCリーグからドラフト6位で入団し、当時26歳。「頑張らないといけない立場。長期離脱をしたらクビを切られるかもと、だいぶ怖かった」。手術に踏み切るのには勇気が必要だった。こうした経験があるため「必ずしも医学的に正解とされることがアスリートの正解ではない」と言う。完治すればいいというものではない。もし、同年に解雇されていたのならば、保存療法の方が正しかったということになる。寺田さんは、こうした「プロ野球選手ならではの事情」を理解し、寄り添える医師になれる可能性を秘める。現役時代に1軍登板はかなわなかったが、その経験が逆に、医師になれば役に立つかもしれない。

先輩の言葉や生きざまも刺激になった。現役時代にかわいがってもらった梶谷隆幸外野手(現巨人)に戦力外通告を報告すると「正直、無理だと思った。医者になれ」と、すっぱりと直言された。「サボってたわけじゃない。一生懸命やった」と練習量には自負があった。近くで自分の努力を見てくれていた先輩に言われたからこそ、プロ生活に諦めもついた。加賀繁投手(現ゲームアナリスト)は、同じサイドスローとして「頑張れ」と投げ方を教えてくれた。藤岡好明投手(現2軍投手コーチ)は食事に誘ってくれ、練習にも付き合ってくれた。「プロの世界は『個の世界』かなと思っていたが『思いやる世界』でした。経験は1つの財産です」と感謝する。

もう1つ、プロ野球選手になったことが、医師につながる理由がある。医学部は授業料など、5年半で約3000万円がかかる。「契約金(推定2500万円)をほとんど取っておいてあるんです」。足りない分は奨学金や「銀行に相談します」と借金で賄う予定。親しみの持てる、新しいタイプの医師が生まれることを期待したい。【DeNA担当=斎藤直樹】