もうひと花、咲かせてくれそうな猛虎デビューだった。阪神育成の変則サイド左腕渡辺雄大投手(30)が5日、沖縄・宜野座キャンプの紅白戦に登板し、1イニングを1安打無失点。左打者3人をきっちり打ち取り左キラーの本領を発揮した。

白組2番手で3回に登板。昨季最多安打の近本をスライダーで詰まらせ投ゴロ、遠藤を同じくスライダーで遊ゴロ。右打席のロハスに右安を許したが、続く佐藤輝を内角低めツーシームで二ゴロに仕留めた。「ストライクゾーンで勝負できてよかった。ボールの質はまだまだですが、スライダーも最低限投げきれる場所には投げられていた。ツーシームも左打者の内角に投げられてよかった」と、納得のマウンドとなった。

この日の佐藤輝は第1打席に藤浪から本塁打、第3打席でも小野から中堅へ二塁打で3打数2安打。抑えたのは渡辺だけだった。佐藤輝も「すごいいいボールで打ち取られてしまいました」と脱帽だった。

昨秋ソフトバンクを戦力外となり再び育成からの出発となった。背番号はホークス時代の48から128へ。青学大2年時に横手投げに転向した。4年間プレーしたBC・新潟では野球だけで生活できず、ホームセンターでアルバイトも経験した。26歳の17年に育成6位でソフトバンクに入団。3年目の20年途中に支配下登録されたがデビュー3試合で左肘を痛めた。昨季は1軍6試合も2軍で34試合に投げた。「肘は1年間戦える状態」と話す。

1軍キャンプでチャンスをくれた矢野燿大監督(53)は、キャンプイン前日の1月31日に全体ミーティングで今季限りでの退任をナインに伝えた。その場にいた渡辺も動揺しただろう。現在、投手陣では岩崎、岩貞がリリーフ専門でいるが、左の強打者を抑えるワンポイントは不在。昨季10勝の伊藤将、先発転向の及川、即戦力新人の鈴木勇斗投手(21=創価大)、桐敷拓馬投手(22=新潟医療福祉大)の開幕ローテーション争いの中から中継ぎに回る投手がでてきたとしても、専門職の渡辺にもチャンスはあるはずだ。

大学の同学年オリックス杉本は30歳の昨年、本塁打王で大ブレークした。入団会見で渡辺は「今度は自分の番だ! って強く思っています」と話していた。矢野監督が目指す「俺たちの野球」は子どもたちが憧れる野球。球速140キロに満たなくても、打ちにくさを追求した変則サイドでヤクルト村上や巨人丸ら強打者を打ち取れば、渡辺に憧れる子どもも多くなるはずだ。このキャンプに野球人生をかけている。【阪神担当 石橋隆雄】