西武渡辺久信GM(56)は真顔で回想した。

「面構えがいいから(支配下)に上げた。ちょっとふてぶてしいし。2軍の防御率も悪かったけど、こういうヤツが1軍で投げるんだなと」

誰のことかと言えば、水上由伸投手(24)である。もう「7回」に投げる姿は、すっかり当たり前となった。もともと今季は「50試合は投げたい」と目標に掲げていたが、すでに「37試合」に登板。防御率は0・74。育成5位入団の2年目などとは到底思えない成績で、オールスターにも初選出された。投手力、特に救援陣が力を発揮し、首位争いをするチームにおいて、水上の成長が持つ意味は極めて大きい。

報道陣を見つけると、人懐っこい笑顔で視線を向ける。そんな右腕は昨季からシュート回転する癖があった直球を改善。腕を強く振るから、スライダーは少し甘く入ってもバットは空を切る。

ただ何と言っても、魅力的なのは、自信しかない姿で投げ続ける“面構え”。「超ポジティブ力」を備えている。メンタルが鋼のような強さというか、逆に柔軟さというか、物事を自然とプラスに考えられる。マウンドで不安そうな表情など皆無。と言うより、そんな負の感情など湧かないのかもしれない。

ピンチはチャンス-。そんな思考でマウンドに立つ。得点圏に走者を背負っても「ここで抑えたらかっこいいな」と思う。だから崩れない。しっかり打者と向かって勝負できる。3万人の阪神ファンで埋まる甲子園で投げた時も「タイガースのチャンステーマが流れてきたので、自分の応援に変えてやろう」と打者への応援を、自らに向けたものと勝手に“都合よく”変換していた。

そんな思考の原点は帝京三(山梨)時代で、「最悪な状況でも楽しむ」というメンタルトレーニングの指導を受けていたこと。当時は打者。スライダーで三振した時も「俺にびびって変化球で逃げたな」と三振で落ち込むことはなくなった。昔は不安になることや落ち込むこともあったというが、いつしか究極のポジティブ人間に生まれ変わっていた。

リリーフ、特に勝ちパターンの役割を担う投手の心と体を保つ難しさたるや計り知れない。試合の勝敗を分ける重要な終盤を任され、抑えて“当然”という目も向けられる。フォーカスを浴びるのは、打たれてしまった時ということも少なくない。いつ来るか分からないマウンドに備える。登板はなくとも、肩を作る日もある。

そんな役回りにおいて、水上の存在は頼りになる。そして混戦のパ・リーグ。1戦1戦が重要になる今後、重圧など無縁の右腕の働きぶりは重要度を増していく。【西武担当 上田悠太】