8月に入り、西武のペナントレースは残り50試合を切った。白星は明らかに増えてきたが、まだ借金がかさむ。松井稼頭央監督(47)就任1年目は戦力が万全に整わず、特に上位チームへの負け越しが響く。

そんな中、7月には神戸→大阪→北九州→福岡という長期ロードがあった。その旅程全てに首都圏から駆けつけた“ガチ”な西武ファン3人に、北九州での試合前に思いを尋ねた。3週間前の取材になる。当時とは空気も少し変わってきているものの、思いはチームの未来にもつながるもの。ここに公開する。

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30代男性には西武ファンの妻がいる。大阪での試合後、京都観光へ。「京都駅のホームから、妻は仕事で東京行きへ、私はこっちへ、です」と笑った。

94年頃から応援する。千葉・幕張育ちなのに、気がついたら獅子党に。最近は年間で1軍30試合、2軍も30試合。生活の一部だ。

「遠征で負けた時はおいしいもん食べて忘れる、って感じですね。今年はだいぶ割り切るようになりましたけど、やっぱり優勝争いしてる中で負け負けってなると、あー…ってへこみますよね」

今の西武はどう映るか。

「(主力がFAで)西武を出て行っちゃうところは大きいんですけれど、それに対して入ってくる戦力がちょっと釣り合わないかなと。それだと年を追うごとに下がりますよね。シンプルにもっと補強してほしいなというところですね。ソフトバンクみたいにとは言わないですけど。下からの突き上げに頼りすぎてるなというのはだいぶ感じて。外の血を入れるじゃないですけど、バランスも大事だと思うんですよ」

ファン歴も長い。印象的な補強を尋ねた。

「けっこうさかのぼるんですけど、福地寿樹選手って、移籍前とかレギュラークラスじゃなかったのに、西武でレギュラーになったりして。子どもながらにすごいな、こういうことがあるんだなと思いました」

1人の加入がチームを劇的に変えるケースは、決して多くはない。それでも補強を望んでいた。

「最下位になってほしくないです、やっぱ。西武ってずっと長い間最下位になったことがなかったのが、ファンとして誇らしい部分だったりしたので。そう簡単に最下位になってほしくないと思います」

その後、中日からトレードで俊足の高松渡内野手(24)を獲得した。福地の再来、なるか-。

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大学3年生の20代男性には就職活動が迫っている。「いまラストスパートですね」と遠征にも熱が入る。

ビジターの応援席が好きだという。「狭いんですけど、そこでの一体感が好きで」。アルバイトで稼ぎ、4月の宮崎や鹿児島の遠征にも駆けつけた。

今の西武はどう映るか。

「不祥事もあって苦しい中だと思うんですけど、ファンとしては今をどうにかというより、来年以降に向けてしっかりチーム作りをしてほしいなと思って。ファイターズも去年、新庄監督がトライアウトって形でやって、今年けっこう結果出てると思うんです」

来季以降-。編成バランスからも感じるという。

「中村選手と栗山選手はけっこうな年齢になってますし、スタメンを張れる外崎選手や源田選手も30歳を過ぎてきたので。次の世代の中心、核となる選手を作って戦ってほしいです。今の感じだと、首脳陣も誰を中心にしていいか分からないのかもしれませんが」

鈴木選手は規定打席に立てば3割行くと思うんです-。そういう彼はファンの“次世代”も考える。

「僕たちみたいに遠征まで来てるファンだと、正直、どんだけ負けても来る、って言い方変ですけど、ライオンズが好きだから時間と予定が合えば来ます。でも新規のお客さんを考えると、いまベルーナドームも満員じゃないですし…」

だから勝ってほしいなと願っている。

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冒頭とは別の30代男性が遠征に来る理由を話す。

「極端な話、勝ってる時って応援なくても勝てると思うんですけど、負けてる時こそ球場の雰囲気とかそういうところでできるかなと思うので。1人の力じゃ何もできないと思うんですけど、それが束になれば大きくなるので」

今の西武はどう映るか-、を尋ねたかったが、彼は応援に徹する。中のことは中に託す気構えだ。

「選手や首脳陣から『あきらめます』って言葉がない限り、僕はあきらめずに上を目指したいです。もちろん若手育成、将来のことも大事ですけど、現場の方々は次の試合も未来も考えて、現実も受け止めながらやっていかなきゃいけないんで、ある意味であきらめないといけないところもあると思うんです」

大局的で、どこか真理を突いている。話が続く。

「ファンはもちろん現実も受け止めるんですけど、最後まであきらめなくてもいい存在というか。本当の意味であきらめない存在で最後までいられるのは、現場よりもファンなのかなと思います」

悟り方がすごい。

「勝ちたいのは変わりないですよ。20年間、ライオンズひと筋で生きてきた感じなので。いろいろな思いもあるんですけど、これまでの感動の恩返しをしたい思いもあるので。19年に2連覇した時、夏前に首位に8・5ゲーム差で。僕が外野席で見た試合なんですけど、すごく点差開いた場面で金子選手が難しい打球を捕れなくて悔しがってる姿を見て、まだあきらめてないなと。そこから追い上げがあったので」

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3人の声は決して、西武ファンの総意ではない。それでも思いの熱さに疑いようはない。いろいろな声、いろいろな愛。青や白に染まるスタンドはあまたの感情にあふれ、試合となればそれが束になる。【西武担当 金子真仁】

声援を送るスタンドの西武ファン(2023年3月31日撮影)
声援を送るスタンドの西武ファン(2023年3月31日撮影)