日本ハム北山亘基投手(24)に取材してから、環境のありがたみに気づくことができた。
9月の連休を使って京都を訪れた。日々のにぎわいからいったん離れて、リフレッシュしたかった。このときの私はなんだか最近ついていないような気がして、御利益のありそうな神社を探していた。京都にいかにもマイナスイオンを発してそうな、のどかな神社があった。「ここにしよう」と京都駅から1時間以上離れた山奥にある、貴船神社へ向かった。
貴船神社行きのバス停で並んでいたとき、ふと顔を見上げると「京都産業大学」の看板があった。「北山選手の母校じゃん」と思い、記念に看板の写真を撮っておいた。
京都から帰ってきた次の日。鎌ケ谷での取材で初めて北山と話した。タイミングを見計らって京都の写真を見せると「お参りのために1人で行ったんですか? 貴船神社、自分も大学時代に行きました。雰囲気良いですよね!」と他の京都のおすすめスポットも教えてくれた。北山はとても礼儀正しい。想像していたよりも元気で、結構笑う。居合わせた記者と共通の話題で盛り上がっていると「…っていうドラマがあるんですよ。ドラマとかは見ないですか?」と話の輪に入れていない人が、置いてけぼりにならないようにすかさず話を振る。気遣いがすさまじい。だからこそ、いつも誰かに囲まれていて人気。取材でも基本的に誰かに囲まれているので、順番待ちが常だ。勇翔寮の前で記者が待機していたところ、知り合いと話し終わった北山は荷物を通行の邪魔にならないところに小さく置いて電話をかけ始めた。スマホを片手に電話をかけているとき、記者と目が合う。背筋をピンと伸ばした北山は静かにほほ笑み、小さく会釈をして通話を開始した。「お待たせしました」と電話が終わると、取材に応じた。細かいしぐさでも、人柄が出る。
北山の母校がYouTube上で公開している、ドラフト会議の密着動画について聞くと「あれは人生で一番周りに感謝していた日でしたね…」とどこか懐かしそうだった。人間、当たり前を覚えるとありがたみを忘れてしまう。当時を思い出すと、再び気を引き締めるように今ある環境の周りへの感謝を口にした。
北山は別れ際は必ず、1人1人の目を見て「ありがとうございました」と礼をする。遠目から見たZOZOマリンのときも、鎌ケ谷でも、変わらない。
京都を訪れて2週間。神にすがる気持ちはもうない。それよりも、今当たり前のように取材させてもらってる今の環境に、ありがたみを感じている。これこそ夏の終わりに滑り込んだ御利益なんだと思う。8月から訪れた鎌ケ谷取材も、空を見上げれば雲の形が変わってきた。私の考え方も、季節を通して変わっている。【佐瀬百合子】