いつまでも正月気分ではいられない。各地で始動する選手たちの自主トレ公開も今後予定されている。広島では毎年、自主トレ公開予定の中に護摩行の公開日も設けられている。今年は会沢翼捕手(35)、堂林翔太内野手(32)に加え、末包昇大内野手(27)と中村奨成捕手(24)が新たに同行する。燃えさかる炎の前でお経を唱える荒行だ。今年で8年連続で8度目となる会沢は、2人をすぐに受け入れたわけではない。

昨季終盤に志願した末包には「もう1度考え直して、それでも覚悟が変わらないなら行ってこい」と再検討を促した。シーズン中からチームメートだけでなく、首脳陣からも“いじりの的”だった末包は「(護摩行に)行くらしいな」と新井監督や石原コーチからも言われていた。結果的に2桁本塁打を記録してもレギュラーを奪うまでに至らず、本人の中で決意が固まった。「もう一段階、二段階、上にいきたい。野球以外のこともプラスにできるものがあれば」。それまでいじってきた人たちが口をそろえて「やめとけ」と言って来たときは、末包も困惑したというが、それでも固い決意は揺るがなかった。

中村奨は入団以降、大きな期待に応えられず、グラウンド外で注目されることがあった。母校広陵の先輩の関係者から、会沢に護摩行同行の依頼があったが「覚悟がいることだから、こちらから声をかけることはしない。本人が言って来たら考える」と動かなかった。シーズン終了後に本人が意を決して直接電話してきたときに初めて、腹を割って話をした。

「人間として弱い部分から逃げることは簡単なことで、つらいことに行くのは勇気がいること。気付くのが遅かったのもあるし、僕たちが気付かせてあげられなかった。僕らは手助けしてあげることしかできないし、尻たたいてあげることぐらいしかできない」

護摩行は目的でも手段でもない。だが、中村奨は「もう逃げたくない。自分の中で、変わるひとつ」と言い切った。それだけの覚悟を持って挑む者を誰も、否定することはできない。8日から臨む荒行は終着地ではなく、新たな出発点となる。【広島担当=前原淳】

2023年1月、護摩行で「広島優勝」と唱える新井監督
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