この1月から巨人担当になった。「入社1年目の…」という意識は捨てなければならない。毎日ドキドキしている。

4日、ドラフト1位の西舘勇陽投手(21=中大)が地元の岩手・一戸町で自主トレを公開した。朝イチの新幹線に飛び乗った。

この日の一戸町は最高気温3度。3日に雪が降り、一面銀世界が広がる。吐く息も真っ白だ。自主トレが行われる一戸町総合運動公園は駅から1キロちょっと。坂道をずっと登っていった先にある。一戸駅からタクシーで向かった。

西舘投手は父の満弥さん(51)が運転する白いワゴン車の助手席に乗ってやってきた。車を降りた西舘投手は足を止めて「おはようございます」と集まった報道陣へあいさつ。満弥さんも「こんな遠いところまで、わざわざありがとうございます」と丁寧にお辞儀をしてくださった。

西舘投手はウオーミングアップを終え、グラブとボールを取り出した。満弥さんもキャッチャーミットを手に取り「親子キャッチボール」が始まった。

親子の距離は徐々に離れていく。西舘投手も力を込める。120キロくらいの力加減だろうか。糸を引くような球が満弥さんのミットに吸い込まれる。甲高い捕球音とともに、少し左手が痛そうな表情を見せる。だがブルペンキャッチャーのように、ビタッとミットを静止していた。

自主トレを終えると、大勢の報道陣に囲まれる。西舘親子は口数が多いタイプではない。質問には照れくさそうな表情を浮かべながら、優しい口調で答えてくれる。

取材を終えた。盛岡へ向かう電車は2時間後。歩いて駅まで向かってみることにした。歩道は除雪されていない。車道の端を歩いた。対向車が私とすれ違う時に、雪解け水をはねないように減速してくれる。

15分くらい歩いていたときだ。見覚えのある白いワゴン車が私を追い越し停車した。運転席から満弥さんが降りてきた。「どうぞ、乗っていってください」と声をかけて頂いた。2度断ったが、お言葉に甘えてしまった。後部座席に乗る。「こんな遠いところまで、わざわざありがとうございます」と丁寧な会釈。西舘投手もペコリと頭を下げていた。一戸駅まではあっという間に到着したが、暖かい空気感だった。

撮影した写真の出稿作業などを終え、午後2時過ぎに青森・八戸駅からやってきた2両編成の「いわて銀河鉄道」に乗車する。岩手北部の一戸町から盛岡までは直線距離で約60キロ。電車は内陸の山間部をぐるっと回って盛岡に向かうため、1時間強かかる。

車窓から見える雪山を眺めながら、今日の出来事を振り返る。プロの舞台に挑む息子の速球を、痛みをこらえながらしっかり受け止めていた父の光景が目に焼き付いている。

誰だって痛いのは嫌だ。でも決してミットの網の部分で捕ったりはしていなかった。ごまかしていなかったのだ。

そう考えてるうちに、電車は一戸駅から30分弱の御堂駅にさしかかった。山が開けると、この日初めて厚い雲の隙間から太陽が顔を出した。緊張して仕事をしていた私の心がスッと軽くなった気がした。

私はもうすぐ記者2年目。これからいろんなことが待ち受けているはずだ。今はできないことが多い。だが、目の前の仕事に対して「ごまかさずに」向き合っていきたい。西舘親子の“空気”に触れて、そう心に誓った。【巨人担当=黒須亮】

西舘が自主トレを行われる一戸町総合運動公園入り口(撮影・黒須亮)
西舘が自主トレを行われる一戸町総合運動公園入り口(撮影・黒須亮)
いわて銀河鉄道・一戸駅(撮影・黒須亮)
いわて銀河鉄道・一戸駅(撮影・黒須亮)
西舘投手が自主トレを行われる一戸町総合運動公園入り口(撮影・黒須亮)
西舘投手が自主トレを行われる一戸町総合運動公園入り口(撮影・黒須亮)
西舘が自主トレを行った一戸町総合運動公園内の室内ゲートボール場(撮影・黒須亮)
西舘が自主トレを行った一戸町総合運動公園内の室内ゲートボール場(撮影・黒須亮)
雪が積もる一戸町総合運動公園(撮影・黒須亮)
雪が積もる一戸町総合運動公園(撮影・黒須亮)
一戸町総合運動公園を出ると坂道が続く(撮影・黒須亮)
一戸町総合運動公園を出ると坂道が続く(撮影・黒須亮)
一戸町総合運動公園を出ると坂道が続く(撮影・黒須亮)
一戸町総合運動公園を出ると坂道が続く(撮影・黒須亮)
一面銀世界の岩手・一戸町(撮影・黒須亮)
一面銀世界の岩手・一戸町(撮影・黒須亮)
西舘投手が自主トレを行った一戸町総合運動公園内の室内ゲートボール場(撮影・黒須亮)
西舘投手が自主トレを行った一戸町総合運動公園内の室内ゲートボール場(撮影・黒須亮)
いわて銀河鉄道・一戸駅ホームからの風景(撮影・黒須亮)
いわて銀河鉄道・一戸駅ホームからの風景(撮影・黒須亮)