「佐井 in USA」と題し、メジャー取材から帰国した佐井陽介記者(35)がベースボールの潮流をルポする。序盤は今季すでに6勝のドジャース前田健太投手(31)に聞く「フライボール革命」。

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下位打線から特大弾が生まれても、ドジャースタジアム記者席の温度は「またか」と至ってクールだった。「ホームラン=強打者」。当たり前だったはずの代名詞はもう米国では通用しなくなっていた。

08年以来、11年ぶりの大リーグ取材。3月28日のドジャース開幕戦で早速、あの流行語を意識せざるを得なくなった。若きドジャース打線がメジャー屈指の右腕、ダイヤモンドバックス・グリンキーを4回途中7失点でKO。チーム8本塁打で大リーグ開幕戦本塁打記録をあっさり塗り替えたのだ。「フライボール革命」って一体どうなっているの? ドジャース前田に実情を聞かせてもらった。

前田 メジャーでは今、ゴロを転がすとアウトになる確率がすごく高いんです。どの球団も完璧に数字を出して、打者それぞれでシフトを敷きますからね。打ち上げる打者が増えた背景には、そういう流れもあるんだと思いますよ。

大リーグでは今季も毎試合どこかの場面で極端な内野シフトを目にする。二塁ベースから三塁側に遊撃1人だけ、というケースもザラ。三塁手が一、二塁間に移動して、左打者が引っ張ったゴロが三→遊→一の併殺打になったりもする。

前田 日本だと「この打者はこういう打ち方だからこっちに来るかな」という部分もあると思うけど、こっちは完璧にデータ。過去何年、何十年のデータを出される。その打者のサードゴロの確率が10%だったら完全に三塁を空けるだろうし、逆に70%だったらそこを固める。実際、自分が投げていても、普通の守備位置なら正面を突いたはずの打球がヒットになることなんて、1試合に何球かしかない。それよりもヒット性の当たりがアウトになる可能性の方が圧倒的に高い。そうなると、打者はゴロを打ちづらくなりますよね。

膨大なデータが投手側を有利にして、一方の打者側も対抗策を講じた結果、「フライボール革命」が一気に定着した、という流れも否めないということか。

前田 野球って矛盾しているなって、ずっと思っていたんです。投手は「ゴロを打たせろ」と言われる。それなのに打者も「ゴロを打て」と言われたら投手の思うツボ。それが日本の野球のおかしいところだなって、昔から思っていたんです。投手がゴロを打たせにくるんだったら、打者がフライを打ちにいくのはおかしいことではないと思う。

となると、今度は投手側も防衛策に焦点を絞る。果たして「フライボール革命」の弱点とは?(つづく)

◆フライボールレボリューション(革命) メジャーでは16年ごろから打球角度を上げる打法が注目され、17年にはこの言葉が出始めた。打球の角度と強さが重視され、その両方を最適化した「バレル(芯でとらえた確率)ゾーン」の打球が最も長打になりやすいとのデータ分析も浸透した。例えば角度26~30度なら速度98マイル(約157・7キロ)以上というデータは、今では誰もが把握する。

◆佐井陽介(さい・ようすけ)兵庫県生まれ。06年入社。07年から計11年間阪神担当。13年3月はWBC担当、14年広島担当。メジャー取材は08年春のドジャース黒田以来11年ぶり。