国際大会で敗れるたびに日本の高校野球の「ガラパゴス化」が焦点になる。“やり玉”に上がるのは飛びが売りの金属バット。金属バットに別れを告げる局面に来ているのだろうか。

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韓国で見た主砲石川昂弥投手(3年=東邦)の愛用バットに驚いた。白木のグリップ上の部分が幅広く黒くなっていた。「僕はバットをあまり折ったことがないんです。これは結構長いこと使っています」。滑り止め剤によるベタつきに、土などが付着する。長く使うほど汚れは目立つ。芯に当てるのがうまい巧打者の証しである。

初戦スペイン戦での石川
初戦スペイン戦での石川

東邦が愛知大会で敗れたのが7月13日。以来、このバットを主に使用してきた。同じく代表選出が内定していた熊田任洋内野手(3年=東邦)らとJR東海の練習に10日間参加。社会人の一線級と、ゲーム形式で本番さながらの対戦を繰り返してきたが、バットを折ることはなかった。

だが、ワールドカップ2戦目の南アフリカ戦。打席に向かおうとしたところでバットの異変に気付いた。初戦のスペイン戦の最終打席で実は折られていたのだ。最も木製バットに対応していたとされる4番打者も、初戦でやられてしまった。どんなに慣らしたつもりでも、本番では勝手が違った。

奈良大会5本塁打で新記録を作った坂下翔馬内野手(3年=智弁学園)は甲子園に出場。短期間で調整に努めた1人だ。「構えの時点で意識が変わる。どうしても力みが出るので、バットが出てこない。大きく構えて、しなりを入れるつもりで振ってはいるのですが」。練習と試合ではメンタル面が大きく違うという。

大会前に4強といわれた台湾、米国、韓国、日本。日本以外の3カ国は高校年代から木製バットを通年使用している。優勝した台湾も3位の韓国も数年前から変えた。台湾のチョウ・ツンチ監督は「日本は(夏の)コウシエンのあと木製に替えるから大変。台湾は普段から使っているので、木製のあつかいは少しうまいと思う」と言った。

米国のレゲット監督にも同様の質問をした。「木製バットは折れるからお金がかかる。米国でも金属バットは使うよ。大会が近づく6月くらいから、完全に木製に替えるんだ」。両方をミックスさせて大会に向かっているそうだ。

木製バットは金属同様、2万円ほど。日本高野連に加盟している選手は14万人超。全員が日ごろから木製を使ったら、どうなるか。石川のように扱える技術を持つ選手は一握り。ここに現実が横たわる。各メーカーは、木製とほぼ同じ性能を持った金属バットの開発を進めている。

記者が思うに、これは「野球の魅力」にも通じる話だ。もちろん木製の芯で打てば別の快感があるが、金属バットで硬球をはじく快感は、誰もが取りつかれる醍醐味(だいごみ)。野球の裾野拡大が叫ばれている時に、国際大会だけを見て木製か金属の是非を問うのはどうだろう。永田裕治監督(55)が「永遠の課題」と言った意味は深い。(つづく)【柏原誠】