韓国でのU18ワールドカップ(W杯)。森敬斗内野手(3年=桐蔭学園)は、高校生とは思えない国際感覚を発揮した。韮沢雄也内野手(3年=花咲徳栄)は、その姿に感銘を受けた1人だ。

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W杯では勝利国の“自撮り”集合写真が大会公式SNSに載る。韮沢はいつも出遅れ、写真から見切れた。決勝打を放ったカナダ戦でさえ、見切れていた。

おとなしく、目立ちたがり屋でもない。その韮沢がW杯ではよく声を出していた。「慣れない一塁守備なので、いつも以上に声を出さないと」。口数は少なくとも、代表に選ばれた感謝、この仲間と世界一に…の思いは、誰より強いと自覚していた。

だから気になった。初戦のスペイン戦の試合前、空気が緩いように感じたという。日本のように試合前の礼もなく、フワフワしてしまった点もあるだろう。花咲徳栄では試合前、ベンチ裏で一言も話さず、全員が目をつぶって腰を下ろしている。何かが違った。韮沢は「言おうと思っても強く言えないのが、自分の短所です」と続けた。

短期決戦で不和は起こせない。人間関係が定着しない状況で「おい、集中しようぜ」と指摘できる高校生など、そうはいないだろう。ただ、大会結果は5位。高校で「入り」の大切さを徹底して教わってきた韮沢には後悔が残っている。

8月、U18W杯スペイン戦の8回に中前適時打を放つ韮沢
8月、U18W杯スペイン戦の8回に中前適時打を放つ韮沢

雪国の新潟・魚沼。祖父母が丹念にコシヒカリを育てる家で大きくなった。農家ならではの準備の大切さは生活にとどまらず、野球にも染みこむ。「自分の長所は、どんな相手でも絶対になめてかからないことです」。走攻守のどれでもなく、挑む姿勢を挙げた。「なめると、バチが当たる気がするんですよ」と苦笑いする。慣れない異国でも「いつも通り」を貫けたからこそ、不動の3番打者としてチームトップの10安打を放ち、ベストナイン表彰のご褒美もついてきた。

準備のために、時には必要以上に考える。「最近、思うんです。いつかは野球を辞めますよね。その時に自分、どうなるのかなって」。甲子園を夢見て故郷を巣立ち、全国優勝も経験。プロを志す段階になって湧く感情。ドラフト候補といえども大人の入り口で等しくモラトリアムは訪れる。

だからこそ、韓国での2週間は新鮮だった。国際交流に積極的な森を「すごいな」と尊敬した。外国選手から「ファースト」と声をかけられうれしかった。自由時間に等身大の仲間たちと過ごし、世界を広げた。表彰式の帰りに交通手段がなく、なぜか公用車でVIP並みにホテルへ送ってもらったのも貴重な体験だ。

どんな大人になりたいか。「強く言えるようにはなりたいですけど」。性格をすぐに180度変えるのは簡単ではない。「強く言われて逆に傷ついちゃう人もいる。そこでカバーできる人間でありたいです」と己を見つめた。職人気質な若者もまた、ニッポンの誇りだ。(この項おわり)【金子真仁】