野球を希望として、医療の最前線で新型コロナウイルスと闘う人がいる。

看護師のケイティ・モスさん(本人提供)
看護師のケイティ・モスさん(本人提供)

米カリフォルニア州サンディエゴの病院で、集中治療室(ICU)の患者をケアする看護師ケイティ・モスさん。「3月に最初のコロナ患者を受け入れて、本当につらいことが続いている。普段ICUに受け入れる患者より(コロナ患者は)症状がひどい。最悪のケースになることもあったし、それを見て怖くなった」。過酷な現場で死を目の当たりにし、恐怖が襲った。

医療用のガウン、手袋、N95マスクを着用。その上からフェースシールドで防護して患者と接する。医療従事者が使用するPPE(個人防護服)も不足していたため「なるべく、自分自身で多くの患者をケアして、少人数で多くの仕事ができるように効率よくやっていた」と押し寄せる患者に対応した。週3~4日で12時間勤務が基本の勤務シフトだが、残業も日常茶飯事。「看護師が明らかに足りない」。切実な叫びだ。

休養も休養にならない。「ヨガに行ったり、映画を見に行ったり、そういうこともできない。自分を休めることも今はできない。それが一番つらい。ウイルスは常にそこにある」。大好きな野球の楽しみもなくなった。ニューヨークで育ち、子どものころからヤンキースファン。デレク・ジーター氏の野球殿堂入り記念式典をニューヨーク州クーパーズタウンまで見に行く予定だったが延期に。「初めてで、とても楽しみだった」と残念がった。

大学生のころ、ヤンキース-メッツの「サブウェイシリーズ」を見に学校を抜け出したこともあった。野球は「私の人生の一部」。わずか60試合のメジャー開催だが「世界で悲しいことが起きている中で、短いシーズンでも、野球があるのはうれしい。無観客で、テレビで見ることになっても、私に楽しみと喜びをもたらしてくれる」。MLBと選手会は労使交渉で決裂した。金銭面での対立という汚点を見ても「もちろんファンであることは変わらない」と愛情を失うことはなかった。

19年前、生まれ育った地で起きた悲劇から、復活した祖国を目の当たりにした。「9・11(中枢同時多発テロ)を経験して、野球が再開すると決まったとき、大きな希望をもたらしてくれた。今、それと同じ機会が巡ってきていると思う」。危機的状況は、あの時と重なる。国民的娯楽のメジャーリーグが、再び人々に生きる力を与える。【斎藤庸裕】