働き方改革に成功した高校がある。東北でも有数の進学校として知られる仙台二(宮城)だ。野球部は15年夏の県大会でベスト8、18年春季大会でもベスト8進出を果たしながら、選手たちは東北大、東大、京大、一橋大などに進学。文武両道を貫いている。

18年、文科省から「学校の働き方改革」が出ると、それに即し、学内で「部活動ガイドライン委員会」が結成され、ルール作りに取りかかった。金森信之介監督(35)もその1人。「野球部は、土日で練習試合や公式戦もあるので、オンとオフのシーズンに分け計画を立てました」。オフシーズンは木曜、日曜の週2日、シーズン中は週に1日が練習休み。教員は年間105日、そのうち52日間は週1日、休みを取るというものだ。

仙台二・金森信之介監督(19年7月撮影)
仙台二・金森信之介監督(19年7月撮影)

運動部の監督として、ルール作りで難しかったのは平日の練習時間。文科省からは、平日2時間、休日3時間の練習時間という指導だったが、部活の準備時間は含めず「実質活動時間」を2時間とし午後7時30分の完全下校を達成した。

仙台二に赴任して6年目。慶大野球部で野球漬けの毎日を送り、次は指導者として甲子園を目指そうと熱い思いを抱いていた金森監督を待ち受けていたのは、多忙な日々だった。赴任当初は土日の1日練習が終わると、自宅に仕事を持ち帰り、夜遅くまで授業準備や受験指導に時間を費やす。休みなしの毎日だった。「正直、赴任して1年目は、超難関校に進学する生徒への指導準備で野球のことなんて考えられなかった。勉強9、野球1の生活。野球をやりたくて指導者になったのに全然違うな、と感じていました」。

しかし現在は、時間に余裕ができ、受験指導にも時間を充てられるようになった。「現在は勉強と野球が5対5でバランス良くできていると思います」とその成果を感じている。そればかりか、余暇には野球の本を読んだり、夫人と買い物や温泉に出かけ、息抜きの余裕もできた。

心の余裕は、指導にも生かされた。「例えば生徒から提出されたものを、これまでは忙しくて印鑑を押すだけで返していましたが、今はコメントを書いて返せる。顔を向き合わせることだけが指導じゃないんです」。野球部員たちとも、トレーニング方法を追求しフランクな会話も増えた。この冬、練習の手伝いに来た卒業生から、こんな言葉をかけられた。「先生、週2日の休みはいいですね。俺らの時は忙しそうでした。今は野球をやっているのがとっても楽しそうに見えますよ」と打ち明けてくれた。毎日の教員の動きや表情を、生徒たちが一番敏感に感じ取っていた。教員の心の余裕は指導力につながる。金森監督は今、それを心底感じている。

働き方改革を行い約2年。金森監督は「今、野球がすごく楽しい。野球と向き合う時間が増えて指導者として右肩上がりだと思います。充実していますよ」と笑顔を見せた。働き方改革に挑み、新たな指導方法を見いだした。これからも「文武両道」の挑戦は続く。【保坂淑子】