侍ジャパン24人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる連載「侍の宝刀」。阪神青柳晃洋投手(27)は「クオータースロー」と呼ばれる変則投法に、球界屈指のクイックで打者を惑わせる。さらに球界屈指の「雨男」で知られ、登板日が直前で変わっても惑わされない。「惑わす力」と「惑わされない力」を国際大会でも生かす。

田中(右から2人目)ら投手陣とコミュニケーションをとる青柳(中央)(撮影・垰建太)
田中(右から2人目)ら投手陣とコミュニケーションをとる青柳(中央)(撮影・垰建太)

青柳のクオータースローは、球界で唯一無二の存在だ。アンダーでもサイドでもない、その間。この呼び名は、帝京大時代の友人が「スリークオーターが4分の3という意味。4分の1だからクオーターでいいんじゃない?」と名付けたという。

自身の中では「アンダースローのばーっと浮くボールをイメージしたサイドスロー」。浮き上がるような直球、ツーシームに、19年に習得したシンカーやスライダーを組み合わせ、ゴロを量産する。打者を翻弄(ほんろう)するのは、独特の軌道を描くボールだけではない。球界屈指の速さを誇るクイックモーション。走者がいない場面でも繰り出してタイミングを外す。

元々は苦手だった。プロ1年目の16年。初勝利を挙げたデビュー戦では、5イニングで4盗塁を許した。この年は68回1/3を投げ、14盗塁された。そのオフには、すぐに課題と真正面から向き合った。秋季キャンプではスーパークイック習得を目標に掲げ、ブルペンでわずかに左足を上げながら、連日投げ込んだ。特訓の末にキャンプ中に最速は、クイックの基準値1秒20を大幅に下回る0秒93をマーク。翌年の春季キャンプでは、あまりの速さに他球団のスコアラー陣が度肝を抜かれるまでに成長した。

グラウンドに入り建山投手コーチ(左)とグータッチを交わす青柳(撮影・垰建太)
グラウンドに入り建山投手コーチ(左)とグータッチを交わす青柳(撮影・垰建太)

プロ3年目の18年は、力いっぱいに投げない「7割投球」に着手した。その結果、フォームのバランスやリリースの感覚が向上。速さに制球力と安定感も加わった。プロ6年目の今では、侍ジャパンの稲葉監督も「ああいう投手は初見では打ちづらい。クイックも速い」と信頼する武器の1つに。ただでさえ打ちづらい変則投法にクイックを織り交ぜ、初対戦の打者を惑わせてみせる。

大舞台で生きるのは技術だけではない。ここ数年は驚異の「雨男」ぶりで、幾度と登板日が流れている。通算11試合の降雨中止&ノーゲーム経験は、予告先発導入以降ではメッセンジャーと並んで球団最多。「雨柳さん」の愛称で呼ばれ、同じ侍メンバーの阪神岩崎に、打席登場曲を徳永英明の「レイニーブルー」にされてしまうほどだ。

「行けと言われたところに行くだけ」。雨で急きょ登板日が変わっても、青柳は決まってそう話す。泰然自若の境地と対応能力を持つ右腕は、代表の1ピースにぴったりはまる。先発でもリリーフでも。緊迫した場面の緊急登板にも、惑わされない。【磯綾乃】