日本のみならず、世界から注目を浴びる野球人と言えば、エンゼルスの大谷翔平だろう。あのメジャーリーグで二刀流でもすごいのに、打者では本塁打王を争いながら、投手では2ケタ勝利に王手をかける。まさに時の人で、メジャーの経験もなく、実績も劣る私が彼を語るのはおこがましくも思ったが、率直に感じたことをしるしていく。

試合を見て、一番感じるのは大谷の周りにはいつも人が集まり、相手チームの選手やファンまでをも笑顔にさせている。なぜ、大谷は文化も考え方も異なるアメリカで、あれほどまでに愛されているのだろうか。プレーはもちろん、人間的な魅力も理由の1つなのだろう。

大谷の周りには笑顔が生まれる(9月24日撮影・菅敏)
大谷の周りには笑顔が生まれる(9月24日撮影・菅敏)

言葉に表せない魅力がある。約40年間のコーチ人生の中で爽やかさを感じる選手はたくさんいたが、大谷は爽やかさに他の人が持ち合わせていないプラスアルファを感じる。プラスアルファが何かは分からないが、これは意識してできるものではないと思う。

ゆえに、今、大谷について、一番知りたいことはこの世に生を受けてから、両親からどのような教育方針で育てられたかである。また、プロ野球に入団するまでの小、中、高校の先生方の教育に対する考え方、所属した野球チームの監督、コーチの指導方針なども非常に興味がある。

指導方針を勉強して、同じようにしようとしてもできないだろう。個人の素材、感性、感受性は異なるもので、持って生まれたものが大きく左右する。欠点をカバーする技術、その他もろもろの強いものがなければ、異国の地でこの成績は残せない。

メカニックの部分で見れば、投手大谷の特徴は小さなテークバックにある。50年ほど前だが、私が現役の頃にも日本で「後ろ小さく、前大きく」の考え方は聞かれた。ただ、この理論はきちんと理解しないと錯覚を招く可能性がある。

考えられるケースは球持ちが悪くなり、それをカバーしようと上半身がかぶさり気味になり、フォロースルーを大きく取ろうとする。そのためにスナップの利きが少なくなる。フォロースルーは自然にできるもので、状態が悪い時にはいわゆる手投げに見える。

私の考えの中でこの理論が当てはまる条件の投手は、上半身、特に腕っぷしが強い人、マウンドの傾斜の落ちる力をうまく使えるフォームの人などである。これらとは違って、体の各部位を使って、重心を低く、ひねりを利用して投げるフォームは日本人投手に多いと言える。

レンジャーズ戦に先発し、力投するエンゼルス大谷(9月3日撮影・菅敏)
レンジャーズ戦に先発し、力投するエンゼルス大谷(9月3日撮影・菅敏)

現役の頃、メジャーリーガーは野球人として、とてつもない存在と決め付けていた。目の当たりにしたのが、2年目の秋に参加した米アリゾナでの教育リーグ。通算660本塁打のウィリー・メイズ、521本塁打のウィリー・マッコビーが遊びに来て、私服でバッティングをしたのだが、いきなりバックスクリーン直撃の1発を放った。この時の衝撃は忘れられない。

余談にはなるが、その後自分に力が付いてくると、自分でもメジャーリーガーを打ち取れるのではないかと錯覚し始めた。過大評価することは己を苦しめることにもなるが、時に、プラス思考というのは大きな武器にもなる。(つづく)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチを務めた。