20年1月からスタートした小谷正勝氏(76)の「小谷の指導論~放浪編」。最終回は、来季からコーチングアドバイザーに就任するDeNAへの「思い」と「使命」。

サインを書いた色紙を手に笑顔で写真に納まる小谷氏(撮影・久保賢吾)
サインを書いた色紙を手に笑顔で写真に納まる小谷氏(撮影・久保賢吾)

4日間参加した秋季トレーニングで、DeNAの投手を見た第一印象は「力のあるボールを投げる投手が多い」ことだった。その一方で、「コントロールがアバウトである」ことも感じた。ゆえに、制球面の修正ができれば投手陣は良くなる。チームを助ける新たな戦力発掘と育成が、使命であると感じた。

この2年間は、1軍の試合をテレビで見る機会が多かった。だから、ある程度の長所、欠点は見えていた。2軍だった選手は見ていないから、結論が出るまでの1カ月間くらいは観察期間だが、素材は良く、これから切磋琢磨(せっさたくま)していくのが、ワクワクしたのが率直な気持ちだった。

今年、1軍で投げた数人の投手には声を掛けさせてもらった。ある投手は、素晴らしいボールを投げるのだが、ベルト近辺から高めの球ばかりだった。いくらいいボールを投げても、高めばかりではプロの打者には打たれる。

ふと、思い出したのが、巨人の投手コーチ時代に出会った越智大祐だった。約40年間のコーチ人生で、苦労した3本の指に入る中の1人だったが、指導を信じ、大きく伸びてくれた。今でも、感謝の気持ちがある。彼もまた、素晴らしい球を投げるのだが、顔の高さばかりだった。

DeNAのある投手に越智との話を持ち出し、あの時と同じように「球1個から1個半低く投げられれば、1億円稼げる投手になれる」と伝えた。「低めに投げろ」と助言するのが普通だが、人によって、低めに投げさせる方法論は違ってくる。目的は低めにいかに投げるかで、伝え方はいくつもある。

持論だが、ペナントレースを制するには投手力が重要となる。点を取らなければ勝てないが、点を取られなければ負けないのだ。大リーグのあるGMは補強の順位に「1に投手、2に投手、3に遊撃手」と言ったと聞いたが、同感である。安定した投手陣を形成すれば、来季のDeNAは優勝の可能性も見えてくる。

非常に楽しみな未来を感じた一方で、少しの危機感も覚えた。4日間参加した秋季トレーニングでは、今年最下位だったような雰囲気は感じなかった。全部を見たわけではないから、評価は避けるが、来春のキャンプでは思ったことをもっと言っていくつもりでいる。そのために私が呼ばれたのだから。

最後になるが、来季からDeNAに身を置くからには日刊スポーツの「小谷の指導論~放浪編」は今回が最終回になる。20年1月のスタートから67回。携わってくださった日刊スポーツの皆さま、愛読していただいた読者の皆さまにも、御礼を申し上げます。ありがとうございました。(この項終わり)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業専念。11年まで在京セ3球団で投手コーチ。13年からロッテで指導し、17年から19年まで巨人でコーチ。来季からDeNAのコーチングアドバイザー。