パ・リーグの発信力が突き抜けている。今月「パーソル パ・リーグTV公式」のYouTubeチャンネル登録者数が、100万人を突破した。試合での好プレーだけにとどまらず、ベンチでのシーンやオフショットなど、ほっこり系からクスッと笑ってしまうニッチなものまで、視点を変えた動画が人気を呼んでいる。

   ◇   ◇   ◇

豪快すぎる空振りに、目を奪われた。当時プロ入り2年目だった西武森。フルスイングしたバットが空を切った。勢いそのまま体がねじれる。その姿に、パシフィックリーグマーケティングの中村達広制作シニアディレクター(42=以下SD)の直感が働いた。パ・リーグTVが独自にまとめたコンテンツ第1号が、森の空振りも含めた豪快スイング集動画だった。

西武森のスイング動画(PLM提供)
西武森のスイング動画(PLM提供)

中村SD 野球の動画は三振を取る、ホームランを打つとか。普通は空振りは排除される。でも当時の森選手が2年目ですごいスイングをしていた。「こんなすごいスイングを映像で残さないのはもったいない」と話して。選手からすると、空振りのまとめなんて「やめてくれ」って話かもしれないが、ファンとしての直感を信じ、出しました。

タイトルは「19歳のスイングに胸が高鳴る!!」。本塁打や安打だけでなく、空振りも含めた16スイングを1分43秒に詰めた。最後の1スイングが豪快な空振り。マイクは、あまりの豪快さにスタンドが沸く声を拾った。動画は共感を呼び、ハイライトにとどまらない現行スタイルの原点に。中村SDが感じた直感は決して間違いではなかった。

中村SD 個人的にやっているなら迷わず出したけど、オフィシャルメディアという性格もある会社でやっているので、これを出してよいかは気を使いました。一番は自分も1人のファンという目線は崩さずに、自分も含め、みなさんがどういうものを見たいかを考え、つくっています。

不安を拭い去り、常識を覆すきっかけとなった。ただ、勝敗に関わるような失策や、調子を落としているシーンは使わない。一時的な動画再生数を稼ぐことよりも、ファン目線でありながら、フラットなスタンスを崩さず、選手へのリスペクトを欠かさないことが、好感をもたらす秘訣(ひけつ)。そもそも、パ・リーグTVにかかわるようになったとき、野球ファンではあったが、特定のチームのファンでなかった。

中村SD 幸いどこのファンでもなかったことも結構大きい。周りのスタッフで熱狂的なファンって人もいるけど、試合を見ていて一喜一憂して大変だなって(笑い)。常に選手とファンと球団があって、その3点の中でどの位置に立ってつくるかを考えています。

1日のほとんどを野球にささげる。自宅でのフルリモート作業となってから、午前中から編集を開始。ニュースをチェックし映像素材をそろえ、合間に2時間ほどジムに行くなど体を動かしつつ、午後5時まで続ける。1時間後にはナイターが始まり、日が変わる直前まで手を動かしているという。チャンネル登録者数100万人を突破し、次なる目標を問われると「ないですね」と即答する。

中村SD ゴールをつくっても、その後も野球はずっと続く。200万人いっても、終わるわけじゃない。本音で言うと現状維持ではいたくない。常に新しい発見をして、選手には無事に長くプレーして欲しい。どんどん新しい選手も出てきて、1人1人魅力を余すことなく伝えられたらというのが正直な気持ちです。

ユニークであり、柔和な人柄が、そのままコンテンツに親しみやすさを映し出している。【栗田成芳】

(つづく)