日大三高で体育教師を務めていた安藤美穂さん(GODAIスポーツアカデミー教頭)は、結婚をきっかけに04年から英国、中国の教育現場を歩いてきた。12年に帰国し、今は神奈川県を中心に、部活動での指導者不足の課題に取り組む日々を送る。折を見て元の職場を訪れ、同僚だった野球部の小倉全由監督(65)に生徒との接し方を聞くのが大切な勉強の場になっている。

日大三・小倉監督(左)と談笑するGODAIスポーツアカデミー教頭の安藤氏(撮影・井上真)
日大三・小倉監督(左)と談笑するGODAIスポーツアカデミー教頭の安藤氏(撮影・井上真)

熱い指導者という点では、小倉監督に匹敵する。教育への情熱が抑えきれない。心に残るシーンを話しだした。

安藤さん 久しぶりに野球部にお邪魔して、小倉先生と話をしていた時です。下校のあいさつに来た生徒が、おじぎをして戻ろうとして机の角に腰をぶつけたんです。そんなに激しくなかったんですが、先生は『おい、大丈夫か』って、声をかけたんです。生徒は恥ずかしそうでしたけど、忘れられない光景でした。

日大三高ではテニス部のコーチ。球場とテニスコートが近く、野球部員と校舎周囲のコースを一緒に走る毎日で、必然的に小倉監督とよく話した。

安藤さん 先生はいつも生徒を見ている。そして、必ず声をかける。あの時も、軽くぶつけただけ。そのまま流すのが普通ですが、先生は必ず声をかけて会話する。見逃さないし、流さない。やっぱり、これなんだなと。教員に求められていることは。すごく心に残りました。

働き方改革があらゆる職場に浸透してきた。教員の仕事の進め方も変わりつつある。部活動の顧問の長時間労働は、社会問題になっている。放課後の指導から週末の試合まで、顧問は常に生徒の動きに目を配る。小倉監督のように寮で生活を共にする形態もあるが、全体の中では異例だ。

教員の長時間労働は議論されるようになり、部活動を外部の人材で補充するケースも増えてきた。安藤さんが取り組むのは、そうした「部活動指導員」の養成になる。今、安藤さんはその「質」を深く考えるようになった。

安藤さん 人さえいれば子どもは幸せか? ということです。欠員を補充して終わりではないはずです。例えば野球やテニス、サッカーの技術指導で生徒は満たされるか? 競技上のアドバイスも大切ですが、部活動を通じて、生徒の人と人のかかわりを見守り、助言できる、そういう人材を目指しています。【井上真】(つづく)