WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

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まさに「宝刀」だ。侍ジャパンに初選出された阪神湯浅京己投手(23)のフォークは、栗山監督が「空振りを取れる特殊球」と絶賛するキレ味を誇る。どんな軌道なのか。沖縄・宜野座での春季キャンプに臨む右腕が熱弁してくれた。

「僕は上から投げ下ろすタイプ。それを生かして、途中まで真っすぐに見えて、そこから落ちてくるボールを意識して投げてます。真っすぐと区別がつかないまま振ってくれたら理想なんです」

坂道ダッシュで汗を流す阪神湯浅(撮影・上山淳一)
坂道ダッシュで汗を流す阪神湯浅(撮影・上山淳一)
湯浅の22年11月強化試合成績
湯浅の22年11月強化試合成績

フォークは時に140キロ台に乗る。常時150キロ台の直球との球速差は少なく、打者が気づいた時にはもう遅い。ボールはバットの下を通過しジ・エンド。侍が日本刀を振り下ろすかのように鋭く、鮮やかに打者を斬ってきた。

昨季プロ4年目で59試合に登板し、43ホールド、防御率1・09。前年までプロ通算3試合登板の右腕が一気にスターダムを駆け上がった。150キロ超の直球とフォークが代名詞となったが、意外にも「僕はもともと直球とスライダーが軸の投手だったんです」と明かしたことがある。

転機はプロ3年目の21年シーズン。当時の高橋建2軍育成投手コーチ(現広島2軍投手コーチ)から縫い目に指をかける握りを教わった。これにより「力みがなくなった」。そして「バッターが空振りする軌道をイメージするようになりました」と余裕も生まれた。思いのまま操れるようになった。

同じく侍ジャパンに選出された巨人大勢とは同い年の親友。昨年11月の強化試合で親交を深めた。湯浅と同様にフォークを武器とする右腕も「真っすぐの軌道からフォークが来る。フォークをケアしていたら真っすぐに振り遅れるし…。僕も欲しいです」とうらやむ独特の角度がある。湯浅も「僕と大勢のフォークは違いますよ」と自覚するオリジナルなボール。オフからWBC公式球で投げ込みを重ね、NPB球と遜色ない質にまで高めてきた。

強靱(きょうじん)なメンタルも一発勝負の国際舞台に向いている。昨年のDeNAとのCSファーストステージでは、8回途中からイニングまたぎでプロ初セーブ。「すごく苦労してきた選手っていうのはすごく魂を感じる」と、栗山監督の心を打った。3度の腰椎分離症を乗り越えてきたバックグラウンドも、ここぞの場面で心を燃やせる理由の1つ。侍ジャパンでもセットアッパー、さらには守護神候補にまで挙がり、フル回転する準備はできている。

「京己(あつき)」の名前には、「自分で自分の京(みやこ)を築けるように」と、両親の願いが込められている。熱きハートと唯一無二の宝刀を持つ侍が、日本の終盤を難攻不落のものにする。【中野椋】