今年もプロ野球の開幕が近づく。昨秋のドラフト会議で惜しくも名前を呼ばれなかった“指名漏れ”の男たちは、それぞれの新天地から再びはい上がる。

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都内で今冬初の積雪を観測し、まだ雪が残る2月中旬。「RISSHO」のロゴ入りパーカを着た、東都大学野球リーグ2部の立正大に入学予定の仁田陽翔投手(仙台育英)が、埼玉・熊谷市内の合宿所に入寮した。

仙台育英(宮城)では、甲子園に3度出場。2年時から聖地に立ち、東北勢初の優勝に貢献した。早大に進学予定の高橋煌稀投手、明大に進学予定の湯田統真投手らとともに「150キロ超えの速球トリオ」として全国に名をとどろかせた。

23年8月、花巻東戦で力投する仙台育英・仁田
23年8月、花巻東戦で力投する仙台育英・仁田

だが、昨秋のドラフトで名前を呼ばれることはなかった。絶対に指名されたい-。そんな余計なプレッシャーは、まったくなかった。「どうなってもいいなっていう覚悟で志望届を出していたので。どっちに転んでも頑張ろう」と、18歳は腹をくくって臨んでいた。

仲間の歓喜も心から喜べた。ともに待機していたチームメートの山田脩也内野手(いずれも3年)が、阪神に3位で指名された。「周りも結構盛り上がりました。(自分は)最後まで選ばれなかったんですけど湯田とかが『下位で行くよりは上位で行った方が良いんじゃない』って声をかけてくれていたので、その時点で前向きにいられました」。仲間の励ましもあり、自分のことも前向きにとらえられるようになっていた。

山田との距離感も変わらない。「普通ですよ。片方が指名されて片方が指名されないのはちょっとだけ気まずい感じではあったんですけど。『4年後行くわ』くらいですね」と心からの拍手を送った。一足早くプロの世界に飛び込んだ仲間の姿は、うれしい。「キャンプ映像とかたまに見るんですけど、うまいなとか、やっていけそうだなって思ったりはします」と、縦縞のユニホームに身を包む山田の姿はモチベーションになっている。

指名漏れとなったドラフト後、大学10校と社会人野球の1社から声がかかった。すぐに面談と見学の日々が始まった。悩んだ末、1学年25人前後、総勢94人の立正大に決めた。「環境はどこも大差はなかったんですけど、他の大学は人数が200人とかいて、そこは結構差があったので。人数が多いといろんなことが限られてしまったり。そういったことを加味しながら選びました」。少数精鋭で競い合う環境に身を置き、レベルアップする道を選んだ。

大学4年間、やるべきことは見えている。高校時代の輝かしい実績とは裏腹に「結構失敗したことが多かった」と、落ち着いた口調で3年間を回顧する。3年夏の甲子園では出場左腕最速の149キロをマーク。最速151キロと出力の高さが持ち味も、僅差の試合ではマウンドに立てなかった。制球が課題だった。「試合をつくれないことや、調子の波が大きくて良い時を維持できなかった。波を減らして、勝てるピッチャーになりたい」。大学では真のエースを目指す。

4年後の「ドラフト1位」を目指し「1」ポーズを決める仁田
4年後の「ドラフト1位」を目指し「1」ポーズを決める仁田

4月10日に春季リーグが開幕する。大舞台経験者の左腕には、早期デビューの期待が寄せられる。応えたい思いはもちろんあるが、慌てはしない。「そういった気持ちでは来ているんですけど、しっかり土台づくりや基礎からやっていきたい。結果だけを求めて焦るのではなくしっかりやることを取り組んでいきたい」。じっくりと、大輪の花を咲かせていく。【佐瀬百合子】

◆仁田陽翔(にた・はると)2005年(平17)6月10日生まれ、岩手県大船渡市出身。仙台育英では1年春からベンチ入りし、県大会で初出場。甲子園には3度出場し、6試合に登板した。174センチ、72キロ。左投げ左打ち。